あの子はいつも、飄々として人生を軽やかに歩んでいく。
でも私は知ってる。
だるいから飲みは行かない〜と言いながら、実は帰って勉強するために早く帰っていること。
お金がないから自炊してると言いながら、実は大好きな彼のために料理を練習していること。
私は立った方が楽だから、といつも電車で私に席を譲ってくれること。
言葉に出して彼女の努力や優しさを口にすれば、彼女の美学を邪魔することになりそうな気がして言えない。
だから、私は今日も彼女にお礼は伝えつつ、努力については口出ししないでただ日々を積み重ねていく彼女に尊敬の念を抱くのだ。
カーテンの光から飛び込む光。
それは私に朝を告げる無情な光でもあり、今日という新しい1日が来たことを教えてもくれる光である。
たった一筋。
眩しいと顔をしかめるほどではないけれど、部屋の中に光の道をつくるそれは、おそらく部屋の中で一番存在感を表している。
私は起き上がり、カーテンを思い切り開けて朝を迎えた。
恋人と別れ、一人になった。
道ゆく家族連れを見ながら、自分もいずれはああなっていたはずなのにとため息をつく。
しかし、あの男と結婚したとして、果たしてあんな風に幸せに笑える家庭が作れただろうかとも考えてしまう。
我慢できていたたら、そんな人生もあったかもしれない。
でも、今ある人生は彼と別れ新たに始まった人生だ。
今から作れるのは、そんなもう一つの人生。
私の新しい物語がはじまる。
いってらっしゃい、は気をつけて帰ってきてね
おかえり、は無事に戻ってきてくれて嬉しい
おはよう、は今日は君とどんな1日を過ごせるかな
おやすみ、は明日も君と過ごしたいな
なんてことない挨拶だけど、実は愛がこもった言葉
私の友達は、もしかしたら私のこと友達だと思ってないかもしれない。
元々は職場の同僚で、リモートワークだから顔も見たことがなかったし、仕事ができない私は彼女にとって良い存在とはいえなかっただろう。
しかし、猫好きという共通の一面から、個別でやり取りするようになり、私用の連絡先を交換し、ついには休日飲みに行ったり、遊びに行くような関係になった。
未だに彼女は私のことを苗字で呼ぶ。
私は彼女を名前で呼ぶようになった。
距離感間違えてないかな、実は失礼を重ねていないだろうか、会うたびに少しずつ懸念は増えていく。
彼女はもしかしたら私のことは友達だと思ってないかもしれない。
昨日まで、そんな心配を抱えながら過ごしていた。
でも昨日、彼女は素面でこう言った。
「最近、こうして休日を一緒に過ごしたいと思える友達ができたから嬉しい」
ついに友達と認められた気がした。
私も嬉しい。
気恥ずかしいけど、にやける口元が抑えられなかった。