百加

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12/19/2023, 6:48:39 AM

冬は一緒に


「冬は一緒に居たいな、……温かいもん」
「冬だけ?」
「……ずっと」
 ぎゅうっと私の手を握ってくれたから、
 鼻の奥がつんとした。
 嬉しくて、泣きたくなる。



#123

12/18/2023, 5:53:14 AM

とりとめのない話


近所の人の噂。
昔、働いていた時の話。
最近の事件。
餌をやっている猫の話。
とりとめのない話が続いていく。

それ前も、何ならその前も聞いたけど、
とか、
こっちの話、全く聞いてないよね、
とか、
こっそりため息をついて、
でも時々ならいいかなと思う。

同じ空間と時間を共有する贅沢。
コロナの時はできなかったこと。
話の内容より、話す相手がいることが大事なんだね。
それがとても嬉しいのだとよく分かるから。



#122

12/17/2023, 9:34:12 AM

風邪


(ヤバい、なんか喉が痛い……)
 イライラと仕事をしていると、会社の空調がいつもより乾燥しているように思えて、喉をさする。コホッと小さく咳き込むと、通りかかった同期が立ち止まった。
「風邪?」
「うーん、そうかも……。でも大丈夫」
 インフルエンザとか言われるとややこしくなる。私は作り笑いで切り上げようとした。
「コレあげる」
 デスクに置かれた、はちみつのど飴二つ。
(意外……)
 彼のイメージじゃない飴を見て、彼の顔を見直すと彼はくすっと笑った。
「結構美味しいから」
「あ、ありがと……」
 そして彼は、もう一度にこりと笑うと足早に去っていった。私はその背中を見送ると飴を一つ口に入れた。口の中をゆっくり転がすと、はちみつの優しい甘さがとろりと広がり、疲れた心も少し甘やかされるようで。
(こういう時、優しくされちゃうと効き目強すぎるんだよ、人誑しめ……)



#121



12/16/2023, 7:52:38 AM

雪を待つ


厚い灰色の雲が暗く垂れ込めて、
底冷えする空気が、指先と頬をじんじんと凍らせる。

今年、初めての雪になるかな。
天気予報を思い出して、そっとつぶやく。
久しぶりの雪の気配に、心が浮き立ってしまう。
子どもじゃないのに。
そ知らぬ顔をしながら、雪を待つわたし。

ときめきにも似た心地で。



#120

12/15/2023, 7:02:47 AM

イルミネーション


 このシーズンになると私が住む町もどこかの町と同じように、いくつかの家はイルミネーションで飾られる。
 それを夜のドライブで見に行くのが私たちの12月の恒例になっている。
 特にお目当てのところは、車通りから逸れて奥まった見えづらいところだ。静かにハンドルを切って暗く細い道をゆっくり進んだ。車の窓を開けると底冷えする夜の空気が車の中に入り込む。

「さむっ」
「今年はどうかなあ、見える?」
「えーと……。見えた! やってる!」
「うわ〜、やっぱ、すごい」
「ド派手だねぇ……」

 目の前に満載のイルミネーションが現れた。古くて大きなお宅の庭木や家の壁を赤、青、黄色、白、ピンク、緑など、色とりどりの宝石のような光が飾り立てる。暗く街灯もない中で光は強烈に明るく、きらきらと輝いた。圧倒される。満艦飾ってこういうことをいうのかも。
 目を凝らせば、隙間にはサンタやトナカイもぶら下がり、大小様々な雪だるまも庭に置かれている。
 ひたすらド派手だ。まるで小ぶりのパチンコ屋だ。イルミネーションにはセンスが出ると思うけれど、ここは生半可なセンスよりパワー!って感じ。

「……なんかすごいけど、良いよね〜」
「うん、ここまでくると何にも言えない」

 私たちは満足して、車の中でくふくふと笑い合った。そして窓を閉じると細い道を静かに車で通り過ぎる。
 普段は全く通らないし、どんな人が住んでいるのかも知らない。
 そんなお宅の力いっぱいのイルミネーションに、毎年楽しませてもらっている。



#119

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