雪を待つ
厚い灰色の雲が暗く垂れ込めて、
底冷えする空気が、指先と頬をじんじんと凍らせる。
今年、初めての雪になるかな。
天気予報を思い出して、そっとつぶやく。
久しぶりの雪の気配に、心が浮き立ってしまう。
子どもじゃないのに。
そ知らぬ顔をしながら、雪を待つわたし。
ときめきにも似た心地で。
#120
イルミネーション
このシーズンになると私が住む町もどこかの町と同じように、いくつかの家はイルミネーションで飾られる。
それを夜のドライブで見に行くのが私たちの12月の恒例になっている。
特にお目当てのところは、車通りから逸れて奥まった見えづらいところだ。静かにハンドルを切って暗く細い道をゆっくり進んだ。車の窓を開けると底冷えする夜の空気が車の中に入り込む。
「さむっ」
「今年はどうかなあ、見える?」
「えーと……。見えた! やってる!」
「うわ〜、やっぱ、すごい」
「ド派手だねぇ……」
目の前に満載のイルミネーションが現れた。古くて大きなお宅の庭木や家の壁を赤、青、黄色、白、ピンク、緑など、色とりどりの宝石のような光が飾り立てる。暗く街灯もない中で光は強烈に明るく、きらきらと輝いた。圧倒される。満艦飾ってこういうことをいうのかも。
目を凝らせば、隙間にはサンタやトナカイもぶら下がり、大小様々な雪だるまも庭に置かれている。
ひたすらド派手だ。まるで小ぶりのパチンコ屋だ。イルミネーションにはセンスが出ると思うけれど、ここは生半可なセンスよりパワー!って感じ。
「……なんかすごいけど、良いよね〜」
「うん、ここまでくると何にも言えない」
私たちは満足して、車の中でくふくふと笑い合った。そして窓を閉じると細い道を静かに車で通り過ぎる。
普段は全く通らないし、どんな人が住んでいるのかも知らない。
そんなお宅の力いっぱいのイルミネーションに、毎年楽しませてもらっている。
#119
愛を注いで
きみ、本当にわからないのかい?
ベシーが持ってくるチキンスープは、きみに捧げられた聖なる特別なスープだということを。
『フラニーとゾーイー』サリンジャーより。
人生に悩んで食べられなくなった妹のフラニーに、心配した母ベシーが何度もしつこく持ってくるスープ。いらつくフラニーに兄のゾーイーが言った言葉です。
うろ覚えですが、こんな感じだったかと……。
忘れられない小説の一つです。
――その器に注がれているのは愛だよ――
#118
心と心
心と心の繋がりは目に見えないから、
世の中に溢れるお揃いたちは、
それを可視化するためのギミック。
ペアカップに、家族色違いの御守りに、スニーカー。
効果なんてないと思っていたのに、
目に入ったら、少しだけ元気になれるみたいだ。
単純だね。
#117
心と心
世の中に溢れるお揃いたちは、
目に見えない心と心の繋がりを可視化するギミック。
ペアカップに、家族色違いの御守りに、スニーカー。
効果なんてないと思っていたのに、
目に入ったら、少しだけ元気になれるみたいだ。
単純だね。
#116