手を繋いで
手は繊細で、
だけどとっても我慢強いから、
誰とでも手を繋ぐことは、多分できる。
だけどあたしが、
この手を繋ぎたいと思うのは、
好きな人だけ、
心を繋いでいきたいと思う人だけなの。
わかってよ。
#113
ありがとう、ごめんね
ありがとう、ごめんねを素直に言える方がいい。
それが正しいことだからとずっと思っていた。
でも違った。
それを言える子の方が幸せなんだ。
ありがとう、ごめんねを素直に言えないあの子は、
いつも小さな肩を精一杯怒らせている。
何度も傷ついてきたことを隠しているんだろう。
あなたが一番優しくして欲しい人達は気づいていないんだ。
繰り返される言葉の棘は、柔らかな心を固くしてしまう。
皮肉も婉曲も要らない。
それは大人に使う技術で、子ども達を幸せにしない。
愛しているなら傷つけないで。
愛してることを素直に伝えて。
それだけでいいのに。
#112
部屋の片隅で
「今日も元気そうだね」
一人暮らしの部屋の片隅で呟く。
そこには丸っこい緑の葉を茂らせたホンコンカポックを置いている。この子がうちに来てから2年ほど経っていて、この前高さを測ってみたら140cmを超えていた。
物言わぬ緑に話しかけながら、はたきで葉の埃をそっと払うと、艶のある葉がさらに光沢を増した。
このホンコンカポックは元カレからのプレゼントだ。
「花ってキレイだけどすぐ枯れちゃう」と私が溢していると、
「初心者向きって言ってたよ」と彼は子供みたいに得意気な顔で買ってきてくれた。嬉しかった。
でもその彼とは、ちょっとしたケンカがこじれて、半年前に別れてしまった。それもこの子は見ていた。
別れた時はつらくて捨てようとしたけれど、結局捨てられなくて今も一緒に暮らしている。
私はこの子を相手に話す癖がすっかりついてしまい、いろいろな話をしては落ち込んだ気持ちを慰めてもらっている。
まだ、彼との別れは納得できていない。でもいつまでもこのままではいられない。
「ねえ、もう捨てたりしないからさ。そろそろ吹っ切ってしまおうかな」
あんたはそばに居てくれるもの。
私はスウェットのポケットからスマホを取り出した。そして目を閉じて深呼吸を一つすると、リストから彼の連絡先を消した。
#111
逆さま
逆さまって、
あんまり良い意味では使われない言葉だけど、
逆さまに覗いた世界は、
いつもと違った景色が見えるんだ。
まるで魔法みたいに。
きっとあなたの周りもそうだよ。
だってほら、昔の人も股から覗いて言ってる。
青い海を天に見立てて、橋をかけて、
空に龍が飛ぶのだもの。
見つけてみてね。
※ラストの場所わかりますか?わかってもらえたら嬉しいです!
#110
眠れないほど
今日、キスをした。
いや、もう昨日になるかな、4時間くらい前のことだ。
君との初めてのキスを思い出しては、ため息をついている。
ベッドに入っても全く眠れそうになくて、寝返りを繰り返す。
柔らかい君のくちびる。
触れた時、少し震えて、ほんのり冷たくて、それから熱くなった。
あのみずみずしい果物みたいなくちびるの感触を、何度も頭の中でなぞっては身悶える。
胸が破裂しそうになる。
ときめきと熱で眠れないほどの夜。
いま君は何をしてるんだろう。眠れているんだろうか。
#109