百加

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部屋の片隅で


「今日も元気そうだね」
 一人暮らしの部屋の片隅で呟く。
 そこには丸っこい緑の葉を茂らせたホンコンカポックを置いている。この子がうちに来てから2年ほど経っていて、この前高さを測ってみたら140cmを超えていた。
 物言わぬ緑に話しかけながら、はたきで葉の埃をそっと払うと、艶のある葉がさらに光沢を増した。

 このホンコンカポックは元カレからのプレゼントだ。
「花ってキレイだけどすぐ枯れちゃう」と私が溢していると、
「初心者向きって言ってたよ」と彼は子供みたいに得意気な顔で買ってきてくれた。嬉しかった。

 でもその彼とは、ちょっとしたケンカがこじれて、半年前に別れてしまった。それもこの子は見ていた。
 別れた時はつらくて捨てようとしたけれど、結局捨てられなくて今も一緒に暮らしている。
 私はこの子を相手に話す癖がすっかりついてしまい、いろいろな話をしては落ち込んだ気持ちを慰めてもらっている。

 まだ、彼との別れは納得できていない。でもいつまでもこのままではいられない。
「ねえ、もう捨てたりしないからさ。そろそろ吹っ切ってしまおうかな」
 あんたはそばに居てくれるもの。
 私はスウェットのポケットからスマホを取り出した。そして目を閉じて深呼吸を一つすると、リストから彼の連絡先を消した。



#111

12/8/2023, 6:45:43 AM