はなればなれ
「それじゃね」
「うん」
「ちょいちょい帰るし、そっちも会いに来てよ」
「うん」
彼の転勤が決まってしまった。もうすぐ電車が来る。
これまでのように頻繁には会えなくなる。正直、泣きたいくらいに寂しい。
でも今仕事を辞めるという選択肢は二人ともない。
「ついて行かないの?」
無邪気なのか無神経なのか、その質問には首を横に振り続けた。
素直について行くという性格をしてたら良かったのかな。でも私は自分の足で立てるようになりたい。
彼を乗せた電車を見送って、はなればなれだねと呟く。
それを繋ぐのは強い想いと運なんだろう。私たちにそれはあるんだろうか。
――そして、何年か過ぎて、
今は二人一緒に笑っています。
#90
子猫
小さくて、ふわふわしてて、
きらきらした瞳から目が離せない。
問答無用で私たちの心を鷲掴みにしてくるんだ。
この可愛い奴らは!
見かけたら近寄って手を伸ばさずにはいられない。
神様はどうして子猫とか子犬とか、こんな可愛い生き物を作っちゃったんだろう。
#89
秋風
爽やかに吹く秋の風の音を爽籟(そうらい)というらしい。
なんて素敵な言葉だろうと、日本語の豊かさに目を瞠った。
(あの国民的マンガでこの言葉を知りました。)
#88
また会いましょう
「じゃあ、また会いましょう。今度は飲みに行けたら嬉しいな」
街で偶然会った彼女は、少し上目遣いをして笑いながら小さく手を振った。そして背を向けて歩き出す。
俺は大きく息を吸い込んだ。顔が熱くなる。心臓がバクバク鳴り始めた。いつもなら社交辞令と思うところだけど……。
でも、これは行くだろ。またっていつだよ?
――決めるなら今でしょ!
俺は腹に力を籠めて、彼女の背中を追いかける。
「待って。この近くにいい店あるんだ。よかったら今から――」
#87
スリル
スリルが欲しかったのは、守られていた頃。
退屈な日常を維持する大変さなんて思いもしなかった。
(日常で冷や汗をかくことって結構あるのに!)
今は普通でいいよ。守りたいものがあるから。
ほんの少しのトキメキさえあればね。
#86