始まりはいつも
私の暮らしの中の、
はじまりはいつもとても小さなこと。
下ろしたてのスリッパの履き心地。
新しい香辛料の開けたての香り。
初めてのパン屋さんに行ってみたり、
夜に散歩に出かけてみたり。
もちろん旅行などもっと大きいことも、時々しんどいこともあるけれど。
そういう小さなはじまりは思ったより元気をくれて、くたびれた心に効いている。
#63
すれ違い
すれ違ってもいいと思うんだ。
それをそのままにするのか、わかり合う努力をするのか、そこが大事だよね。
だから努力するよ。
あの時、あなたはそう言って笑ってくれたね。私たちは大丈夫、ずっと続くと信じてた。
だけどあの面影は今はどこかに消えてしまって、私も見つけ出そうとは思わない。
終わりが見えていても、回避する力が私たちにはもう無い。
ただ終点へ流されていく。
多分、冬が来る前には。
#62
秋晴れ
見上げれば秋晴れの澄んだ空。
爽やかな風が金木犀の香りを運んできて、部屋の中まで甘い香りが漂っている。
隣町の秋祭りのお囃子の音も聞こえてきた。
何よりも新米の季節だ。ご飯を炊くのが楽しみになる。
お茶碗に盛られた熱々の炊き立てご飯を見れば、家族の歓声も上がる。つやつやピカピカのご飯は、どんなご馳走にも負けないくらいだもの。
こんな美味しいご飯が食べられるなんて、日本人で本当に良かったなあ。
そう思うのは私だけじゃないですよね?
(明太子で食べたいな。)
#61
忘れたくても忘れられない
辛かったこと、苦しかったこと、もう皆は忘れてしまっているか、気にさえしていないこと。私だけが忘れたくても忘れられない。
傷が治っても傷跡は消えないように。
文章を書くようになった時、思い出したくない出来事の一つ一つが、書く文章に影響していることに気がついた。あんな出来事でも無駄ではないのかもしれないとその時初めて思った。
書くことで傷は書くための材料に変換される。思い出すとあの頃がリアルに甦り、余計に苦しくなるのに、書くのをあきらめたくないのはなぜだろう。書けば癒やされるというのは本当なんだろうか? まだ実感はない。
それでも生きづらいと思ったことや、身が縮むような恥ずかしさ、悲しかった子供の頃の仲間外れも、あの頃の私が踏ん張ってくれたから今があるのだ。忘れなくていいのかもしれない。生きてて良かった。今の私は素直にそう思えている。
#60
やわらかな光
言葉よりも、もっと多くを語る、
君のやわらかな目の光。
暗い心の奥まで届く光は温かくて、何にも代えがたいものだった。
君が見ていてくれるなら、もう辛くはない。
もう寂しくはないよ。
それだけで生きていけると思うから。
#59