鋭い眼差し
なぜそんな目をするのだろう。
混んでいる電車で肩が触れた。
自転車が側をぶつかりそうな勢いで通り過ぎた。
ほとんど憎しみのような、刺すような鋭い眼差しがこちらに向けられる。
怖い。
わからない。どうしてそんなに。
一瞬心が竦んでしまい、それを怒りが上書きする。
そこに居たから、邪魔だから?
だけど相手を選んでる。強そうな男性だったなら絶対にしないくせに。
それはよくあること。
私は慣れようとして、息を深く吸って、苛々する気持ちをゆっくりと吐き出した。
#58
高く高く
高く高く昇っていく。
摩天楼から街を見下ろすような、そんな夜があってもいいじゃないか。
まがい物じゃない、君となら。
#57
子供のように
まいったなあ。
皆は帰ってしまって夜のフロアに二人きり、私のちょっとした冗談に、あまり表情を変えないあなたがまるで子供のように笑い出す。
そんな笑顔を見るたびに息が詰まって、胸がいっぱいになって、触れたくて伸ばしそうになる手をぎゅっと握りしめている。
今朝だって隣り合わせたエレベーターで、あなたは目を細めて笑いかけてくれたよね。
その笑顔は私だからって思ってもいい?
自惚れちゃってもいいの?
#56
放課後
夕方、駅へと向かう高校生がお互いの顔を見て吹き出した。肩まで叩き合いながら大きな声で笑っている。
いいな。放課後は学生だけの特権だね。
夕食までの自由時間は、
友達との他愛ない話でも楽しかった。
特別な時になるかもしれないと期待も少し混じってた。
会社帰りの私は足早に、彼ら彼女らの横を通り過ぎる。
振り返ってみたくなる。
代わりに得たものもあるのだけれど。
#55
カーテン
カーテン、よくある普通の言葉ですが、私にとっては別な意味もあります。
あのミステリの女王、アガサ・クリスティが生み出した名探偵エルキュール・ポアロの最後の事件のタイトルになっているからです。
探偵らしくない彼の物語はどれも面白く、特に有名なのは『オリエント急行の殺人』になるでしょうか。タイトルを聞いたことがある方はたくさんいると思います。
『カーテン』は彼の最後の事件というだけに、ファンには胸に迫るものがあり、内容も深く厳しいところもあって、私には忘れられない小説です。
1943年にクリスティが死後発表する予定で書き、1975年クリスティの死の前年に発表されました。
クリスティの作品全般に言えることですが、彼の物語も古きイギリスの風俗が生き生きと描かれており、当時を楽しく想像させてくれますし、人生への冷徹な視線と、それでいて温かさも感じる内容は、今の時代に読んでも古びているとは思いません。
TVドラマシリーズではデビッド・スーシェが演じていましたが、もうこれが本当に彼としか思えないくらい素晴らしいものなんですよ。
本もドラマも本当に素敵なシリーズなので、まだの方はぜひ一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。秋の夜長にはぴったりの作品だと思います。
#54