奇跡をもう一度
どうか、神様。
公園のベンチに座った私は、心が千切れそうな思いに強く目を閉じる。
「奇跡なんて望んだことはなかったな」
目を開けるとあなたは背中を向けて立っていた。
その言葉に笑うべきなのか、泣くべきなのかわからない。そうだね、あなたは何でも自分の力で切り拓く、そんな人だもの。
その時あなたは私を振り返った。
「……でもそれは僕が、奇跡をもう一度と願うほどの痛みを知らないだけだった」
少し口ごもりながらあなたはそう言って、私の手をとり、強く握り締めた。
#45
たそがれ
たそがれ時が、
見知った顔さえ見分け辛くなる時なら、
逢魔が時は、
見知った顔が別人に見えるほど、魔がさす時になるのだろうか。
「ねえ、どうしたの……?」
薄暗い中、ゆっくり振り返ったあなたの顔は、奇妙な暗い影が落ちてまるで別人のようで、そしてぞっとするほど禍々しく見えた。
#44
きっと明日も
「また明日」
そう言って夕方に手を振った友達とは、もう二度と会えなかった。
そんな明日があるなんて、想像もしてなかったんだ。
あの時何かできたのか、何度考えても答えはなくて、せめてとても大切だったと一言伝えたかった。
――きっと明日も。
そんなの誰にもわからない。今日と同じ明日が来る保証なんてどこにもない。
そのことを思い知った十七の秋。
#43
静寂に包まれた部屋
静かだね。
静かだな。
出会って、恋して、傷ついて。
今はソファに並んで座り、目を見合わせて微笑み合う。
静寂に包まれた部屋に、コーヒーの香りだけが満ちている。
ここは誰にも邪魔されない二人だけの城。
今夜だけは。
#42
別れ際に
いつも、
見えなくなるまで見送ってくれるよね。
振り返ると必ず手を振ってくれる。
きっと口元には微笑みを浮かべてる。
何気ない別れ際に、
言葉にしない思いがたくさん詰まっていて、
思い出すたびに、温かいもので胸がいっぱいになる。
――ありがとう。
#41