通り雨
薄青のルリマツリの花が満開だ。
その花の群れを雨が濡らしている。
刺激に弱い花だから、いくつかは地面に落ちてしまうかもしれない。
通り雨が上がって外に出ると、夕方の空は綺麗に澄んでいて、
空を切り取ったような薄青の花と緑の葉が艶々と雫に光っていた。
#40
秋🍁🌰
夜更けに目を閉じる。
開けていた窓から夜の空気が冷んやりと入って、厳しい夏の暑さに疲れた体を癒やしてくれる。
やっと秋だね。ほぅと息をついた。
竜田姫が司る実りと彩りの秋だから、美味しいものを食べて、美しい景色を見に行こう。
もちろんあなたと一緒にね。
#39
窓から見える景色
「このビルからなら花火が見えるよ!」
近くで花火大会があった。開始時間を待ち兼ねていた残業中の何人かが、窓ガラスに集まる。高層ビルの大きな窓越しに花火が上がり、歓声も上がる。とてもよく見える。
綺麗だった。でも思ってたのと違う。
音が遠い。風を感じない。火薬の匂いもしない。
開けられない窓から見える花火は、私には本当の花火とは思えなかった。
ちょっぴり残念だった夏の思い出。
#38
形の無いもの
そう言えば、『モノより思い出』というTVコマーシャルがあった。
でもそんなこと言っても、モノって大事じゃないの、と私はひそかに思っていた。
私が行った私立の女子高はお嬢さんが多くて、先生と親の勧め通りに素直に入学してしまった後、そのことに気づいてしまった。
(あれ? うちって皆よりお金がないのかも……)
別に家は貧乏じゃなかったし、友達もひけらかすわけじゃなかったけど、彼女達の家にあるものが自分の家にはない。
人生で初めて世の中の格差みたいなものを、肌で感じた。少し悲しくて、友達にも親にも気づかれたくなかったから、誰にも言えなかった。
その思いは長い間消えなくて、学校を卒業してからも私の中にずっとあった。そのせいで変な切迫感を持って働いていたけれど、皆と同じようにと張り切って買ったバッグとかブランドのネックレスとかは、今となっては悲しいほど記憶が薄い。
大事な友達と寄り道した喫茶店とか、一緒に行った旅行や、あちこち出かけたこと、いっぱい喋って笑ったことなど、形の無いもののことはよく覚えているし、思い出すたびとても楽しい気持ちにさせてくれる。
やっぱりモノより思い出なんだなあ、と実感する。
でもその思い出のために、ある程度のお金は絶対必要だったわけで、頑張ったよね、今でも素敵な思い出になってるよと、あの頃の私に言ってやりたい。
#37
ジャングルジム
昔、酔っ払った親父が俺に言った。
「俺はジャングルジムがいいんだよ!」
「はぁ?」
「何でかわかるか?」
「いや全然……」
「てっぺんに至るルートは一つじゃないってところだ!
どんな登り方をしてもいい。自由にゴールを目指せばいい!」
大人になるに連れ、親父の言葉を思い出すことが増えた。
選択する時、決断する時、必ずあの言葉が俺の背中を後押ししてくれる。
……そんな気がする。絶対言わないけど。
#36