形の無いもの
そう言えば、『モノより思い出』というTVコマーシャルがあった。
でもそんなこと言っても、モノって大事じゃないの、と私はひそかに思っていた。
私が行った私立の女子高はお嬢さんが多くて、先生と親の勧め通りに素直に入学してしまった後、そのことに気づいてしまった。
(あれ? うちって皆よりお金がないのかも……)
別に家は貧乏じゃなかったし、友達もひけらかすわけじゃなかったけど、彼女達の家にあるものが自分の家にはない。
人生で初めて世の中の格差みたいなものを、肌で感じた。少し悲しくて、友達にも親にも気づかれたくなかったから、誰にも言えなかった。
その思いは長い間消えなくて、学校を卒業してからも私の中にずっとあった。そのせいで変な切迫感を持って働いていたけれど、皆と同じようにと張り切って買ったバッグとかブランドのネックレスとかは、今となっては悲しいほど記憶が薄い。
大事な友達と寄り道した喫茶店とか、一緒に行った旅行や、あちこち出かけたこと、いっぱい喋って笑ったことなど、形の無いもののことはよく覚えているし、思い出すたびとても楽しい気持ちにさせてくれる。
やっぱりモノより思い出なんだなあ、と実感する。
でもその思い出のために、ある程度のお金は絶対必要だったわけで、頑張ったよね、今でも素敵な思い出になってるよと、あの頃の私に言ってやりたい。
#37
9/25/2023, 9:23:16 AM