ブランコ
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幼い頃、一番好きな遊具はなんだったか、と聞かれると私はブランコが好きだったなぁと思う。
あの独特の浮遊感。少しずつ地面を蹴って、体が一瞬ふわっと舞い上がるのだ。立った姿勢のままこぐこともあった。風をきる瞬間がどうしようもなく心地よかった。
幼稚園の、外で遊ぶ時間はいつもブランコで遊びたい子がたくさんだった。私は順番ことかは苦手だったので砂場で遊ぶことが多かった。
今でも覚えているブランコの思い出がある。幼稚園が終わったあとのことだ。母が迎えに来てくれて、私はその日、どうしてもブランコで遊びたかった。なので、母と一緒にブランコが空く順番を待っていたのだ。その日は6つあるブランコがすべて埋まっていて、空いてもまたすぐ埋まってしまう……という状況だった。なのでちょっと焦っていた。それで、ブランコの1つが空いた瞬間私は一目散にそのブランコを死守するために駆け出した。瞬間、左肩に激痛。ブランコで遊んでいた子の、こいだ足が私の左肩にクリーンヒットしたのだった。本当に私って頭が足りない。確か、脱臼したのだっけ。本当に肩で運がよかった。頭とかだったら恐ろしいことになっていたのかも。
旅路の果てに
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この、長いようで短いような旅が終わったら、私はその果てに何を見るのだろう。満点の星空だろうか。家族の顔だろうか。幸せな記憶だらけだったらいいと思う。あったかいかぼちゃスープの匂いだったり、猫のひだまりのような匂いだったり。
終活について考えるのが好きだ。「終活」は「就活」と音が一緒なので結構間違われる。私は終活は大好きだが、就活は本当に大嫌いだ。就活というものを始めてすらいないのに、この言葉で胸がきゅっと窮屈になるのほど嫌いなのだ。
しかし、まだ私は若いので「しゅうかつ」というと、必ず「就活」の方に意味を捉えられてしまうのだった。
さすがに現実の友達には終活が好きということは伝えていないが、ネットの友達には話したことがある。めちゃくちゃ心配されたので二度と話さないでおこうと思った。
終活の検定も3級を持っている。3級は無料で受けられて、お金を出せば証明書も発行してくれる。
私は終活のなにに心が惹かれるのだろう。人生の仕舞い方だろうか。一番楽しいことは、自分の遺産(お金ではなくモノ)をどう処分するかを考えるのが楽しい。音楽関係のモノは楽器店に行けば高く買い取ってもらえる、だとか。私がいなくなったあとの片付けは楽な方がいいだろうからモノを定期的に断捨離するのも楽しい。
2025/12/25/木/遠い日のぬくもり
明日は結婚式だ。彼氏の空も私もなんだかそわそわ、としている。
仕事が終わって、アパートの一室に帰り、夕ご飯を一緒に食べた。
お風呂が沸くまでのなんだか微妙で中途半端な時間。私は明日の予定が書かれた紙をぺらっと見たり、くるくる回したりしていた。
「俺、アイス買ってくるよ。理沙も一緒に来る?」
「うーん、行かない!私はパピコがいいです!」
「わかったわかった笑笑。じゃ、行ってくる」
ぱたん、と扉を開けて空は外に出て行った。なんとなくさみしくなって、さっきまで飲んでいたノンアルの缶を片手にベランダに出た。遠ざかる空の背中をみて、やっぱり空って良い彼氏だな、なんて思う。
「……紹介したかったな」
私のお母さんとお父さんは幼いころに事故で亡くなっている。ここまで私が生きてこられたのは間違いなく両親からの愛情があったからだ。
撫でてくれた手、抱きしめてくれた体に感じたあたたかいぬくもり。
三人で歩いた道は、いつだって私が真ん中で、二人の手を握っていた。
辛い時もしんどかった日だって、あの遠い日のぬくもりがあったから頑張れた。
お母さん、お父さん、私明日結婚するの。
紹介したかったな、私の彼氏。笑顔がかわいくって、とても優しいの。
「なにしてるん?さむいからこっち来な?」
振り返ると、空がコンビニの袋を片手に立っていた。
「はーい」
「アイス、体あったまってから食べるんだよ、風邪ひくぞ~」
「あいあい」
いつのまにか指先が冷たくなっていた。あたたかい室内へ足を踏み入れる。
明日の結婚式はきっといい日になるだろう。
2025/12/24/水/揺れるキャンドル
【あらすじ】
その日は世間が浮かれるクリスマスイブだというのにうなだれていた。理由はバイトで怒られたから。クリスマスマーケットの片隅で見つけた不思議な夜店。アロマキャンドルを買って家に帰った。火を灯すとゆらゆらと揺れる光に眠くなり、幼い頃のあたたかい夢を見た。それは今は亡き祖母との思い出。「あいさつは心を映すのよ。」祖母の言葉が彼女の背中をそっと押し、明日からの仕事の小さな一歩につながる。
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その日は世間が浮かれるクリスマスイブだというのに、私はうなだれていた。理由は本当にちっぽけでつまらないものである。バイト先で「もっと大きな声を出して挨拶して」と注意を受けたのだ。
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2025/12/23/火/光の回廊
「あ、光の回廊だ。」
ティラは、朝の光にきらきらと照らされた回廊に足を踏み入れた。
早朝の静かな中庭は、騒々しい昼には考えられない神聖な雰囲気を醸し出している。
中庭から見える空は少し薄い水色をしていて、雲の合間から差す陽の光が天からのはしごのようにそっと静かにそこにあった。
冬の冷たい空気をすんっと吸うと肺いっぱいに冷たさがひろがって、なんとなく心地がいい。
中庭のベンチに座り、今日読もうと思っていた本のページをはらり、とめくった。
はらり、はらり、はらり、はらり。
「ねぇ、その本っておもしろいの?」
ふと気がつくと、ベンチの隣に赤いマフラーを巻いた女の子が座っていた。
頬を寒さで赤くしながら、こちらの目をまっすぐ見ている。
ティラはとてもとても引っ込み思案で、恥ずかしがり屋だった。
(な、なんでこんな時間に他人がいるの…?あ、もう空がすごく明るい…)
ティラはこんな他人から話しかけられる状況は全く想定していなかったが、それはひとえに自分が本にのめり込みすぎて時間を忘れていたからであったことに目を回しながらようやく気がついた。
「あ…えっと…」
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