シオン

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7/17/2024, 2:28:18 PM

 神様になりたかった。
 なりたかったというよりは、ならざるを得なかったのほうかもしれない。
 神様の子供として、神様になるべきものとして生まれた僕はそれなりにヤンチャしながら普通に生きた。
 それで僕は間違えた。
 神様になれる直前の現世渡航で間違えた。
 僕はユートピアに来てしまったから。
 あの地点から実に長い時間が流れた。僕はもう、とっくにこの生活に慣れてしまった。
 だから後悔というよりも、遠い日にあったいつかの思い出みたいな感じであの時のことを思い出す。
 今記憶を持ったままあの地点に戻っても、僕はまたユートピアに来るだろう。
 あの世界よりも僕にとってはここの方が居心地がいいから。

7/16/2024, 1:32:08 PM

 空はいつも通りの晴れ模様だった。
 毎日晴れている、どころかどんなタイミングでも絶対に晴れている、まさに晴天だった。
 綺麗ではあるけど、少しだけ不気味でもある。
 どんな時もどんな時も絶対に晴れている、なんて。
 でも同時に、輝いている太陽の光が権力者に反射するのはとても綺麗で、晴天の下で弾くピアノもとても心地がいい。
 悪くはないけどな、なんて思った。

7/14/2024, 2:00:48 PM

 ギュッと手を握ったら彼女を離さずにいられるのか。たまにそんなことを考える。 
 別に彼女がどこかに行きそうだとかそういうわけではない。ただ、なんとなく、そう考えるだけだ。
 まぁ多分無理だろうと思う。
 彼女の手をこちらが一方的に握ったとこで多分無駄だろう。
 僕の手を振り払ってきっと逃げてしまうだろう。
 だからやっぱり僕のとこまで落とさなきゃなぁなんて僕は思うわけである。

7/10/2024, 3:24:10 PM

 目が覚めると、眼前に広がったのは演奏者くんの顔だった。
 眠った時は自分の部屋だったはずだ。ボクは彼に家を教えていない。だから知らないはずだし、来れないはずなのに。
 それでも目の前にいたのは演奏者くんだった。
「おはよ」
 彼は爽やかにそう言った。
 そういえばどういう体勢なのだろうか。ボクはベッドに寝ていたはずで、今眼前が演奏者くん、後ろに見えるのは天井だろうか。ということは……。
「…………押し倒してる?」
「みたいな状況だね」
 挨拶の言葉の返答として、見当違いなことを言ったにも関わらず、特に動じぬ顔で彼は言った。
「……あの、どいて」
「ん? なんでだい?」
「……………………なんで、いるの」
 喉の奥からひねり出すように言ったら、彼は初めて表情を変えた。勝ち誇った笑みから、歪んだような顔に。
「簡単に言うなら……『面倒くさくなった』から」
「…………?」
 なんでそんなことを言われてるのか、全く理解出来ずにいると、彼は続けた。
「きみはいつまでたっても真実を話さない。だからさ、こうして捕まえて尋問しようかと思って」
「………………尋問?」
「ああ、きみが本当は全く権力がないことは知ってるからね、この世界のことを洗いざらい全部」
「…………言うと、思ってんの」
「……ふふ、大丈夫だよ。今は言いたくなくてもすぐに言いたくなってくる」
 彼はそう言うと不敵に笑った。

「…………っ!」
 目が、覚めた。
 外は明るく、日差しが地上を照らしていて、特に部屋には誰も見当たらない。
 夢、だったのだろうか。それとも、もう何もかも終わった後なのだろうか。
 服を着替えてあわてて外に出て、広場の方に走ると彼が落ち着いた顔でピアノの前に座っていた。
「…………演奏者、くん」
「…………? ああ、権力者」
 なんてことないいつもの笑顔で彼はボクに気づいて。だからといってあれが夢だという証拠もなくて。
「どうしたんだい、そんな汗だくで」
「……………………!」
 彼がボクの方へ向かってきて、汗をタオルで拭ってくれようと手を伸ばしたのを反射的に避けてしまった。
 驚いたような困ったような顔でボクを見たあと、彼は言った。
「……なにか、悪い夢を見たかい」
「………………ボクのこと、知ってる?」
「? 権力者だろう? 『この世界を統治してる』」
 ああ、よかった。夢だったのだ。
 彼はボクのことを知らない。この世界を知らない。よかった、まだ、君と一緒に居られるようだ。
「…………なんなんだい、きみは」
「ううん。また演奏聴かせてよ」
 ボクは不安がすっかりなくなって、笑顔で彼にそう言った。

7/8/2024, 2:18:32 PM

 『夜』だった。
 なんて言うと多分めちゃくちゃ他人事っぽくなるので言い換えるなら『夜にしてしまった』が正しいだろうか。
 天使の力はまだ残っているのか、なんて思いながら試しに力を使ってみたら夜になってしまった。
 街の灯りが暗い世界に彩りを灯している。案外電気がつくもんだな、なんて場違いなことを考えたとき、前から権力者が走ってきた。
 髪は乱れ、顔から流れる汗が家から漏れ出る明かりを反射してキラキラと輝いていた。何かに慌てているような様子である
「どうしよう…………。世界が夜になっちゃった」
「そうだね」
「なんで、そんな冷静に………………」
「ああ、僕がやったから」
 彼女は信じられないものを見るような顔で固まった。
「………………演奏者くんが?」
「ああ。戻すね」
 人差し指を高く掲げてくるんと反時計回りに回せば空は晴天に戻った。
「………………………………」
「これでいいかい?」
 彼女は僕に目も合わせなかった。カタカタと震えながら少しづつ後ずさっていく。
「どうしたんだい?」
 そう声をかけた時、彼女はひねり出すように言った。
「…………い、意味わかんない」
 泣きそうな声だった。僕に恐れを抱いているようなそんな声。
 彼女に一歩近づいた時、彼女は来た方向に向かって走り去ってしまった。

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