『夜』だった。
なんて言うと多分めちゃくちゃ他人事っぽくなるので言い換えるなら『夜にしてしまった』が正しいだろうか。
天使の力はまだ残っているのか、なんて思いながら試しに力を使ってみたら夜になってしまった。
街の灯りが暗い世界に彩りを灯している。案外電気がつくもんだな、なんて場違いなことを考えたとき、前から権力者が走ってきた。
髪は乱れ、顔から流れる汗が家から漏れ出る明かりを反射してキラキラと輝いていた。何かに慌てているような様子である
「どうしよう…………。世界が夜になっちゃった」
「そうだね」
「なんで、そんな冷静に………………」
「ああ、僕がやったから」
彼女は信じられないものを見るような顔で固まった。
「………………演奏者くんが?」
「ああ。戻すね」
人差し指を高く掲げてくるんと反時計回りに回せば空は晴天に戻った。
「………………………………」
「これでいいかい?」
彼女は僕に目も合わせなかった。カタカタと震えながら少しづつ後ずさっていく。
「どうしたんだい?」
そう声をかけた時、彼女はひねり出すように言った。
「…………い、意味わかんない」
泣きそうな声だった。僕に恐れを抱いているようなそんな声。
彼女に一歩近づいた時、彼女は来た方向に向かって走り去ってしまった。
7/8/2024, 2:18:32 PM