お題 泣かないで
「泣くな!! どうして泣くんだ」
急にぐずりだした妹に、俺は苛立ちながら言葉を投げつけた。
「だって、お兄ちゃん、わたしをおいてきぼりするんだもん」
どうやら歩き疲れてしまったらしい。中学生の男の俺と、まだ小学二年生の少女である妹とでは、歩くスピードやピッチが違いすぎる。
「しょうがない。家までおんぶしてやる。だから泣き止んでくれ」
俺はそう言うとしゃがんで、妹を招くように両腕を後ろに回した。
「ありがとう、お兄ちゃん」
泣き止んだ妹は、俺の背中にしがみついた。俺は妹をおぶさって帰り道を急いだ。
陽はとっぷりと暮れていた。冬の日の入りは早い。あっという間に暗くなる。自然と早足になった。家に帰りたい。温かな家に……
お題 冬のはじまり
お題 微熱
最後に放たれた渾身の一球が、キャッチャーミットにおさまった。
途端に湧き上がる歓声と拍手の凄まじさ。
遂に待ちかねたこの瞬間!!
割れんばかりの歓呼の声。鼓膜が裂けそうな叫び声が上空を突き抜けた。
熱に浮かされたかのようだ。
確かにこの場にいる人々は、微熱があったに違いない。
どうかこの熱が、来年も続きますように……
お題 太陽の下で
すくすくと太陽の光で成長していく僕ら。太陽の下で葉を広げ、燦々と輝く陽の光を受けて育つんだ。
もっと大きく、もっと高くと育つんだ。
秋になったら実を結び、僕らの下で待っていた動物達の腹を満たす。
食べた後のタネから僕らの仲間が発芽して、陽の光を受けてすくすくと成長していくんだ。
僕らは太陽の下でずっと暮らしてる。
いつも輝いていてくれてありがとう。
お題 セーター
今時珍しいな。手編みのセーターをプレゼントする女とは。
濃紺と明るい紫の糸が織り込まれて、あたたかみのあるセーターだった。
「紺と紫は高貴な方の纏う色なんだよ」
その女は可愛らしい笑顔でそう言った。
「高貴なのか?オレそんな奴じゃないぜ」
それでも女は眩い笑顔で微笑みかけうんと頷いた。
だが1年と経たずに、女はオレの元を去っていった。
オレとは気が合わなくて、他の男に取られてしまった。
女の重たい想いが詰まったセーターを残して……
そしてそのセーターを捨てられないオレだった。
もうオレが着る事は無いのに……