ぬいぐるみを握る手がかじかむ
始発に乗るため駅で待ち合わせと約束してたのに
あの子は今どこだろう
リュックサックに入っていると思っていた
貼らないカイロは、貼るカイロだったし
急いで家から出た時に、電気を消したかなんておぼえていないし
先週告知された推しの俳優のテレビ出演は録画していただろうかなどと不安が尽きない
地下の改札前に吹き抜ける木枯らしを追い風に、嫌な予想が膨らんでしまう
既読はついたか確認しようとスマホを触る
液晶が氷のように冷たい
あと3分
いや、あと1分で既読がつかなかったら改札に入ろう
ボイラー室で振動が響く
僕の鼓動の裏拍を取るように
線路の高架下とは違った煩さ
和太鼓の音と違う体の中に響くのも
今を生きる僕と彼女の音
彼女の鼓動を止めないように
彼女の鼓動を
この部屋で
このレバーで
このボタンで
このスイッチで
コントロールする
滞りなくこの仕事を全うする
今を生きる僕にできることだ
「なぁに、浮かない顔してるねぇ。
こーんなの端っこにいちゃ、アンタを見つけられないよ。次郎ちゃんが話きこーか?」
キャンパスの端の木陰で1人黄昏ていたら、頭の上から長い髪のカーテンがかかった。背中をバシバシ叩かれながら、隣に座ってきた。
「アタシにいってみなさいよ。ほーら。なに、気になっている人がいて、勇気を出してインスタ交換したら、パートナーがいたって?あー、それはドンマイさ。」
今にも涙が溢れそうな自分の目元をみて、両手で顔を挟んできた。何か思いついたのか、すくっと立ち上がり声高らかに、
「やっぱり気分転換にはお酒だよ!今から呑もうか。いいじゃん、こんな時こそ授業サボるべきよ。さぁいきましょー」と自分の腕を引っ張る。次郎におされるがまま大学を後にした。
貴方に会えたあの夏の薬師寺。
御朱印をもらい、展示期間限定の倶利伽羅龍の背景に1人喜ぶ。ゲームて貴方と会って4ヶ月。本物の貴方に会える。せっかく薬師寺に来たのだから、国宝の仏像でも見ないかと連れに誘われるが、「貴方に会うこのワクワクを他の芸術品にむけたくない」という謎の意地で断る。
貴方は展示会の最後、メインディッシュのようにガラスケースに佇む。扉の向こうから流れ出る日差しが後光のよう。どの角度から見ても貴方は輝いていた。貴方の匂い、目で覚えることができた。朝並んでいるときは大雨だったのに、会場を出ると雨は止んでいた。貴方と会えた祝福で晴れてくれたのかな?
またこの景色に会える日は何年後でしょうか?
エアコンの室外機があるグリーンマットが敷かれた小さな広場。うちは君とそこで寝っ転がることが好きだった。
昼休み、小学生皆んな運動場に行って遊ぶ。うちは高学年やから、ちっさい子と一緒に遊ぶっていう時間やってんけど…君と寝転んでゴロゴロするのが好きだった。空を見上げてさ、「あの雲何に見えるー?」とか言って、笑って喋ってたっけ。覚えてるかな。大きな瞳の君の目が合うたび、心がポカポカしてさ。あれが恋だったのかな?
今日は同窓会。あのお手紙机の中に入れてたの実はうちやねん。もし、覚えてたら…ほんま覚えてたらでいいからな?……紅葉の木の下で待ってるで。