「ふふ、君の髪は手櫛が通りやすいな」
なんて言ってくれるのだろうか。今はなんと言ってもらえるかを夢見る余裕がある。だがなぁ、奴に斬られたこの髪をみて、微笑む姿が想像できない。
自慢の長髪。彼にといてもらう朝の時間が好きだった。微睡の中、優しく頭を撫でる手。毎日、この時間を楽しみに眠りにつくのだ。
それが、なんで、なんで…。一瞬の隙をつかれた。バッサリと一振りで斬られた。パラパラと荒地に落ちる髪の束。彼が宝物のように手入れしてくれたこの髪を、なんで…。視界が滲むなか、奥歯を噛み締め敵を討つ。幸い、自分の体に大きな傷はなかった。心の傷は深いが…はは。
彼の元へ帰るか…。真っ青になるだろうな。肩を痛いほど掴まれてさ。今から始まる絶望に足が重くなる。申し訳ないし、己が不甲斐ない。ああ、門が見えてきたな。月明かりに照らされる髪が好きだと言ってくれたことを思い出す。こんな日にちょうど満月とは皮肉だな。扉に手をかけ、少し深呼吸をする。なんで言ってくれるだろうか。
「…ただいま」
2025/06/08
「夢見る少女のように」
ごめん遅れたー
っていう相手はもういない。僕が約束を破ったから。
ごめんは何度も伝えたけど、ごめんなさいってしっかり謝ったことはなかったなぁ。
最後に君とした約束は破らないよ。もう謝罪は届かないかもしれないけど。
おはよ
おはよ
今日何時の電車?
たぶん8時かな
了解、コンビニ
前で待っとく
ありがとう
卒業式の朝、最後の待ち合わせ
あの光はなんだったのだろう
一人河原で石を投げて遊んだ帰り
目の前を焼き尽くすような輝きを見た
フラッシュバック?
いいや、そんな光の記憶僕にはない
大人はテレビの見過ぎといって
真面目に話を聞いてくれない
気になって気になって仕方がない
明日、理科の先生に聞いてみよう
スマホのバイブで目が覚め、自分だけ起きる
隣に眠るキミの安心し切った顔
かわいいな
キミが起きるまでこの時間が止まってほしい
さぁ朝ごはん準備しますか