私が好きなのは彼じゃないし、
彼が好きなのも私じゃないの。
私の好きな人は、私を好きじゃなくて。
彼の好きな人も、彼を好きじゃない。
だから、って言葉では説明出来ないけど。
今はただ、私と彼が付き合ってるってだけ。
おかしな話でしょ?
そんなこと、私たちがいちばん分かってる。
愛してるのに、愛されないのが辛かった。
それだけなの。それが一番苦しかったの。
これは、二人だけの秘密。そして罪。
どうか責めないで。どうか許さないで。
弱くて惨めで最低な私を、私たちを、
どうか、愛して欲しかっただけなの。
退屈な授業。睡魔が襲う午後。
下敷きを挟んだ白紙の帳面。
目を移す。
鳥の群れ。目を焼く日差し。
今しがた引かれた飛行機雲。
刹那、大きな影。
窓の向こうと目が合った。
鈍い音と甲高い悲鳴が耳の奥を支配する。
不快感と非日常な空気が教室を包み込んだ。
死のうと思ったことなんて、数え切れないほどあった。
ふとした瞬間の、衝動。
道路や踏切の中に入りたくなったり、
窓の外へ向かって飛び降りたくなったり、
家にある洗剤を片っ端から飲みたくなったり、
握っている包丁を首に滑らせたくなったり。
生きてるのが辛いとか、多分そんなことではなかった。
死ぬことに興味を抱いてしまった。それだけだった。
死ななかったことに、大した理由は無い。
まだ読んでない本が家にあった。
そういえば友達と遊ぶ約束をしていた。
死ぬことに対する好奇心を、
生きないと叶わない別の何かで上書きしただけ。
そんな他愛もない日常が、私を生かしていた。
私が今生きているのは、きっとその延長線。
私が生きる意味は、この日々を過ごすため。
生きる意味なんて、その程度。
死なない理由なんて、そこまでない。
だからこそ、この生活がかけがえのないものなんだ。
ずっとずっと好きなのは、許されないこと。
あなたに想い人が出来ても。
そんな想い人と結ばれても。
子宝に恵まれ、幸せな家庭を築いていても。
ずっとずっと好きなのよ。
たとえ老いぼれてしまっても。
私に向ける笑顔じゃなくても。
それでも、好いてしまうから。
流れ星に願いを込める。
想いを伝えるなんてことはしないけど、
叶わぬ恋を抱き続けるのは苦しいから。
たとえ叶わぬ願いであっても、
たとえ願ってはいけないものであっても、
この一瞬の輝きに託すくらいは許して欲しいの。
あの流れ星のように、
私の恋心も眩く流れ落ちてしまえばいいのに。
君が私から逃げられる瞬間は、いくらでもあった。
それでも私の手を離さなかったんだ。
散々私に頼って生きてきたじゃないか。
今更逃げたいだなんて、自分勝手が過ぎるぞ。
理解できない。君には私が必要だろうに。
私がいなければ何も出来ない癖に、
何も出来なかった癖に、
私を遠ざける理由はなんだ?
わざわざ綺麗な道を敷いてやっているのに、
断固として自分の道を突き進むのは何故だ?
君にとって私の手を振り払わなかったことが
たとえ間違いだったとしても、逃げることは許さない。
私が君から離れたら、どんなに困るか教えてあげよう。
目を腫らすまで泣いたって、涙を拭ってやらないよ。
喉が枯れるまで叫んだって、君を慰めてやらないよ。
君が自分から僕を求めれば、手を伸ばしてやるのに。
ねぇ、身をもって知っただろう?
君は私なくして生きていくことなんてできやしない。
これからだって、頼らないと生きていけないんだよ。
もう一度手を繋がせて欲しい。
ほら、そう言ってしまえば楽になれるのに。
頑なに口を開かない君が、どうにも愛らしくて。
全く私は気味が悪いよ。ぜんぶ、君が悪いんだ。