嘘を吐いたと、君が罵られていた。
誰も傷つかないような、些細な嘘。
それなのに君は、謝罪を口にする。
嘘が全部悪いものだなんて、誰が決めたの。
正直な事が良い事だなんて、誰が言ったの。
素直な言葉ほど鋭利になるって知らないの。
人を幸せにできる嘘があるって知らないの。
君は誰よりも、ずっと優しかった。
私は誰よりも、それを知っている。
君の幸せな嘘に、救われたから。
君の目を見つめると、何故か君は逃げ出そうとする。
落ち着きのない表情で、私の視線から離れていく。
そんなところが愛らしくて、同時に少し悲しくて。
君は知らないのだろう。
私が何度君に助けられたことか。
君は無自覚だから、助けたという認識もないのだろう。
それでも確かに救われたのだ。
君の暖かく柔らかい視線に。
誰かに見られているというのは、
必ずしも気持ちの悪いものではなく。
誰かに見守られていると言うだけで、
人の心は何故か強くなれる。
君の視線は、私を酷く安心させるものだった。
君に覚えがないのだとしても、私は決して忘れない。
君の視線を、君の優しさを。
そして、私は君にそれを返そう。
私を助けてくれたように、君を救いたいから。
私の熱い視線を、存分に受けとってくれ。
付き合って6年。初めての高級レストラン。
どこか覚悟したようなあなたの目。
私はプロポーズされるのだろうと悟った。
料理も終盤。
あなたが席を立ち、私の横で片膝をつく。
柄にもなく様になっているその姿。
緊張がこっちにまで伝わってくる表情。
堅苦しい口調と、指輪を差し出し震える腕。
「この世の誰よりも幸せにする。」
キザな台詞を言うものだと、思わず笑ってしまった。
だけどそれ以上に、信じられないくらい嬉しかった。
幸せにするだなんて、大層なことを口にしないで。
あなたはただ、私の手を離さなければいいのよ。
そう言い指輪を嵌めると、
あなたは嬉しそうに微笑み頷いた。
一目惚れしたあなたの笑顔と重なった。
ぐさり。
聞こえないはずの音が鳴る。
君の言葉が心に深々と刺さっていた。
泣いてしまいそうになるけど、
君に悪意がないのは、痛いほどよくわかってる。
だから僕も、悲しい気持ちを押し殺す。
今日もまた、何気ないふりが上手くなる。
周りの誰もが君を軽蔑した目で見下す。
もはや社会の全てを敵に回した君は、
取り乱しながら僕に助けを乞う。
君を知る全ての人間が君の死を望み、
君を知らぬ全ての人間が見て見ぬふりをする。
この世のどこにも居場所のない君は、
この世の何よりも愛おしく思えた。
君が僕の腕にしがみつく限り、
僕は君の全てに応えよう。
君が僕の足にすがりつく限り、
僕は君とともに逃げよう。
彼らのハッピーエンドは、君が死ぬ未来らしい。
僕が君の手を払い除けるだけで、
全世界にハッピーエンドが訪れるそうだ。
つまり僕らのハッピーエンドは、
彼らのバッドエンドの上に成り立つものってこと。
君はその幸せの重さに潰されて生き続けてね。
僕がずっと眺めていてあげるからさ。