とんでもない悪夢を見た。
君が僕の隣から居なくなる夢。
酷く恐ろしくて、冷や汗も涙も止まらない。
急いで飛び起きたら、いつも通り、君が隣で寝ていた。
安心と同時に、どうしても君の瞳が見たくなった。
すやすやと眠る君を起こすなんて、最低な事だけど、
こんな夢を見たんだって、泣きついてもいいかな。
どうか優しく、慰めて欲しいんだ。
タイムマシーンがあったなら、
貴方に再び会えるのでしょう。
それでも過去に戻りたいとは、
貴方にもう一度会いたいとは、
口が裂けても言えないのです。
初めて出会った時の胸の高鳴りも、
貴方と話していた時のなんとも言えない幸福も、
薄れてしまったのです。忘れてしまったのです。
私はこんなにも薄情な人間だったのです。
貴方に合わせる顔がない。
貴方の声も、もう思い出せないのです。
それでも貴方を愛していたのは確かです。
貴方に振られた時の胸の痛みも、
もう二度と会えないと知った時の絶望も、
全て、嫌に鮮明に、憶えているのです。
この苦しみを、貴方を愛していたという証明を、
大事に仕舞っておきます。
私はあなたを確かに愛していた。
けれど今は愛せるかわからない。
それならば、幸せで辛かったあの記憶のまま、
閉じ込めておきたいのです。
彼に褒めてもらえるように、出来る限りのおめかしを。
彼と素敵な時間を過ごす為に、真心を込めたお料理を。
彼との話が途切れないように、趣味の予習はばっちり。
あとは、何をすればいいのかしら。
初めての事でドキドキが止まらないの。
正解がないなんて、とっても意地悪な問題ね。
それでも嫌じゃないのは、すごく幸せだから。
何度も時計を確認して、何度も鏡を見返す。
早く彼に会いたいという気持ちと、
まだ心の準備が出来ていない気持ちとが葛藤する。
落ち着け私、安心して。
今日はきっと、人生で一番特別な夜になるから。
消えてくれ
貴方が私に言った、最初で最後の言葉。
何度も貴方に会いに行ったのに、
毎日貴方だけを見ていたのに、
私の愛は、届いていなかった。
貴方の家で毎日晩御飯を作っていたのは私なのに。
貴方に視線を送る邪魔な女は私が追い払ったのに。
貴方はその女の手を取って、私の手を振り払った。
認めて貰えない愛は、持っていたって意味が無い。
愛されない私は、生きていたって邪魔なだけよね。
だけど確かに私は貴方を愛していて、愛されたかった。
どうかそれだけは、覚えていて欲しいの。
雪の降る暗い夜の中、独り海を目指す。
貴方に初めて出会った場所。貴方を好きになった場所。
この海に二人で身を流すのが夢だったのだけど、
貴方の願いはこれでは無いのでしょう。
貴方の幸せを望んでいるの、壊す事など出来やしない。
私の事を嫌いになってもいいわ。恨んだっていい。
だから、絶対に忘れないで。最期のお願いよ。
海の底へと沈んでいく。貴方への愛を握りしめて。
君に会いたくて、唇に紅を引いてみる。
明るくなった自分の顔、少しは君に釣り合うかな。
小さく聞こえた褒め言葉が、私の耳を赤く染めた。
君に会いたくて、赤い腕輪を付けて行く。
君から貰った初めての贈り物。
自分で言うのもなんだけど、私にとっても似合ってる。
君に会いたくて、赤い靴を履いてみる。
ヒールが高くて何度も転びそうになっちゃったけど、
君はその度に微笑んで、私を支えてくれた。
君に会いたくて、首に赤い線を引いた。
何も言わずに逝ってしまったから、
お洒落をする余裕が無かったの。これで許してね。