愛のベクトルが違うんだ。
君が僕を5思っていても僕は80思ってる。
100本ある愛の花のうち、
君は僕に渡したより多くの花を他の人に手渡すから。
虚しいんだ。
僕を置いて進む君が。
目移りを抑える心が。
果てなく報われないのに謙虚でいようとする体が。
僕の心に塗された君の鱗粉が払えないんだ。
神様みたいに白く清く美しい君が
僕の手の内で孵化したのに。
蛹から孵ってすぐ、羽ばたいて行ってしまう。
見てるだけじゃ物足りない。
もっとずっと僕を求めて欲しい。
あわよくば添い遂げて、君の死に顔を眺めたい。
そうしてずっと、僕だけ見ていて欲しい。
こんな気持ちを抱えるくらいなら、
もう叶わないことを願うなら、
君なんて握り潰してしまえばよかった。
幸せの定義は様々ですが、
楽園は幸せの象徴ではないでしょうか。
天使が楽園を作り、
人々はその恩恵に感謝と幸福を感じます。
やがて満ち足りて溢れます。
どうなると思いますか?
人々は死にます。
楽園は悲鳴で溢れ、
天使の柔和な笑みは内臓と共に潰れます。
セロリを食むような柔らかい音は
頭蓋に噛み付く音です。
何故かわからないようですね。
答えを教えてあげましょう。
人間は皆、罪を持って生まれたからです。
七つの大罪には人間が持つ
全ての醜悪な欲望が現れています。
手の内に収まりきらないものでも手に入れようとし、
溢れた幸福を追って争いが起こるのです。
しかし、その欲と裏腹に命は非常に虚弱です。
手中の糸を引っ張るように、
命を手折ることは限りなく簡単です。
刻一刻と迫る死から、逃げたいと思いますか?
際限ない幸福に身を委ねていたいですか?
我を忘れて踊り、歌い、泥のように眠りたいですか?
束の間の幸せも、ささやかな思い出も
全てかけがえのないものとして受け入れたいですか?
ならば私の胸で眠りなさい。
罪を認め、生まれ変わり、償うのです。
今この時、命潰えていないことに
価値を見出せるように。
ーそう言って、手を広げた貴方は笑った。
君の頭が弾けた。「ぽん」と。
素敵だと思った。
もう二度と見られないのが酷く残念に思ったよ。
動かなくなった君の体は歪に血を這いずっていて、
その姿に魅力は感じないけど。
君は顔が良かった。
カメラを構えるのは僕の仕事。
瞬間が大事、って言葉が君は口癖だったよね。
ふとした顔、唯一無二の驚き、写った影も
一度逃せば再現は不可能だ。
だから、撮ったんだよ。
僕は瞬間を映す人なんだから、あんなシーンは
フィルムにも、僕の瞳にもよく焼き付けるべきだと。
夜もふけて、火の近くでカメラに触れる。
見開いた目、薄く開いた口に厚い下唇。
形の良い眉と、切り揃った前髪。
黒子や薄くかかった前髪は君の顔をより引き立てる。
そして、側頭部から噴き出す血。
色鮮やかに透け、まるで彼岸花のように
芸術的な形を魅せている。
これは宝だ。
何にも変えられない。
色褪せない。
刹那の君を閉じ込めた、僕だけの大事な宝物だ。
きょうははろういーんでした。
みんなちまみれでりあるでした。
きょうはさくらあまざけをのみました。
たくさんのんだせいでせんせにおこられました。
きょうはてすとがありました。
とちゅうでといれにいきたかったけど、
おじさんがいたのでやめました。
きょうはまちにいきました。
すぱいもにんじゃもいませんでした。
ぜんぶゆめでした。
おかあさんにあうゆめでした。
おかあさんなんかどこにもいませんでした。
せんせとけんかしました。
おこってせんせをおしたらおちました。
かえるみたいになったのでゆるしてあげました。
といれのおじさんがはいりたがっていました。
せんせはいないから、やってあげました。
でもくさくてきたなかったからてをはなしました。
そしたらおちちゃいました。
ーもう、あの子どうにかしてくださいよ
毎日問題を起こしてるんです!
いよいよ周りの人まで…
ーこっちだって手を打ってるよ
でも何処もあの子を受け入れてくれないんだ
君だって知ってるだろ?
引き取ってもらえたって数日経たないうちに
そこが潰れちゃうんだ
ーじゃあもう、どうしろっていうんですか?
まるで悪魔じゃない!
ー私だってこんなことになると思っていなかった
あの子を引き取ってしまったのが運の尽きだったよ
…もう諦めるしかないんだ
せんせいたち、なんのおはなししてるの?
あのね、ちょうちょをてでつかまえたよ
すごいでしょ
あれ?しんでるや
もう!よわっちいんだから
せんせ、あそぼうよ
せんせいかおこわい
なんでそんなかおするの?
ねえにげないで
ひとりにしないで
ちゃんといいこにするから…
ここは戦争地帯だからさ。
僕らみたいに貧弱なやつは、
虫みたいに「ぷちっ」と潰されちゃうんだよ。
とどのつまり、
ここじゃ希望なんか持つだけ無駄ってこと。
わかったら頭を隠しな。
あいつら、頭部を撃つのが好きだから。
なーんて、言ってた僕が撃たれちゃ世話ないな。
どうした。早く行けよ。
はあ?お前、お人好しだなぁ…
もう助からないんだし置いていってくれ。
荷物は下ろすタイミングが大事なんだよ。
日が暮れてきたなぁ…
みんな撤退していったみたいだね。
音が聞こえない。
おい、迂闊に動くな。地雷まみれなんだから。
夜は地雷が見えにくいんだ。
だから早く行けって言ったのに。
…今日は月が明るいな
この調子だと、見えるかもしれないぞ?
ん?まだ真昼?
そっかぁ…
なんか今夜は月が近いな
月って実は赤いんだ、知ってるかい?
僕も今知ったけど。
星が綺麗だ、見える?
…お願いしようか
神なんてもうとっくの昔に見限ったけどさ、
こんな時だけは特別じゃないか?
戦争がなくなりますように
お腹が破れるほど沢山ごはんをたべられますように
君がいつまでもわらえますように
みんな、だいじなひとにあえますように
らいせはしあわせで
へいわなせかいにうまれますように
また、きみにあえますように