なふる

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11/30/2023, 4:49:46 AM

私の家には猫がいる。
黒と灰色のトラ柄猫で、ところどころに白ブチ模様がある女の子。
性格は、気分屋で気難しい。でも甘え上手。
彼女の気分が向かないことには、誰も彼女のことを撫でたり、ましてや抱っこするなんてことはできない。
無理やり何かしようものならおおよそ猫から出るとは思えない低いダミ声で唸られて、引っかかれる。
そんな我が家の女王様の最近のルーティンは、朝ごはんを食べている私に寄ってきて、膝に乗せろとにゃあにゃあ鳴いてアピールすること。
寒がりの彼女には、最近のフローリングの冷たさが堪えるんだろう。
そうしていつからか、人間の膝の上は人間の体温で暖かいことを覚えてしまった。

満更でもない顔で膝の上の毛玉を撫でながら、冬のはじまりを感じる。

11/28/2023, 12:26:27 PM

『閉まる扉にご注意ください』
静かな車内に、ノイズ混じりのアナウンスが鈍く響く。
プシッ、と空気が抜ける鋭い音がして、背後でドアが閉まる。
私の体を一度だけぐっと右に引っ張って、緩やかに列車は動き始めた。
傾いたリュックを背負いなおし、開いている座席がないか辺りを見渡す。
通路の奥、列車の車両の一番端のブロック席が空いている。
くたくたに疲れた足を速く休ませるため、持っていた小ぶりなスーツケースの柄を強く引いた。

幸運にも4人掛けの席に先客はいなかった。
スーツケースを荷台に預け、窓際の席を陣取った。
窓には、見知らぬ景色が流れては消え、また流れては消えていく。

この町へは観光目的で来た。
珍しく有給が取れた。ずっと仕事で埋まっていたスケジュールに突如空いた二泊三日の穴。
折角だから普段しないようなことを、と思い立って重い腰を上げたのはつい三日前のことなのに、なぜだか遠い昔のような気がする。
目的地をここに選んだのは、ただ豊かな自然と触れ合えるとか、観光名所が多いとか、ご飯が美味しいとかそんな大したことのない理由。

動機の割に、この三日間は充実した時間を過ごせた、と思う。
一日目にこの町に着いた時の感動も、二日目に食べた名産品の美味しさも、ついさっきのことのように鮮明に蘇る。
だからこそ、もう帰路についているのが信じがたい。

タタン、タタン、と規則的に電車が揺れている。
景色が次々と飛んでいく。
何の思い入れもなかった場所なのに、離れる瞬間がどうしてこんなに物悲しくなるのか。
緑ばかりだった窓の外に、灰色が混じりだす。
非日常から日常に、最寄り駅まで一本のこの列車が今は少し恨めしい。

せめてもの抵抗に、瞼を閉じて旅の思い出に浸る。