てふてふ蝶々

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9/22/2023, 12:33:52 PM

ごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるさい。
何を話してるのかまでは聞こえない。
耳栓してるし。
ベッドホンの時もあるけど。
でも、鳴り止まない声?音?
どうしたら静かになる?
遠くの田舎なら静かに暮らせるだろうか?
安眠の為に、とりあえず一泊で寂れた旅館に行く。
あぁ、喧騒もなく、木の葉の揺れる音、水音だけ。
理想的な環境だ。
夜はゆっくり眠れるだろう。
そう思ったが、薄暗くなると、町民放送?って言うなんかわからない時報が大音量で流れて、心臓が飛び出るほどびっくりした。
そのあとは、農作業か何かから帰ってきたらしき人達の酒盛りの声がする。
やっと静かになったかと思えば虫の声。
もう、この世には静かな場所なんてないと思った。
人の声が嫌い。
そんな自分は人として生きていくには無理だろう。
歳をとり、人以外の鳥の声、虫の声までうるさいと感じて、表現しきれない程の嫌悪感を感じる。
防音室で生活しよう。
都内に戻り、なるべく小さな家を買い、完全防音の部屋も作った。
若い頃は音に対する敏感さは収入になった。
今ではお金の価値とは何だ?と捻くれた考えしかなく無駄に金ばかりある。金は音を立てず静かにして役立つ。
この防音室で安心を得て、辛かった若い頃の自分を慰める。
もう、生活のほとんどがこの防音室でいるようになったある晩、久しぶりに『うるさい』と思って目が覚めた。
防音室に一人きり。
無音のはず。
耳を澄ませる。
何か聞こえる。
一定のリズム。
部屋のどこかに隙間ができたか探しても見当たらない。
部屋の真ん中にあぐらを組んで座る。
耳を澄ます。
一定のリズムは自分の鼓動だ。
そうか。声が苦手なんじゃない、生きてるって音が苦手なんだ。
なんだか腑に落ちた。
『うるさい』と感じてベッドホンで聞いたクラシックは電子化されたものだった。
風に吹かれる木の葉の音。は心地よかった。
年齢とともに敏感さすら頑固になり続け、ついには自分の心音すら『うるさい』と思うようになってしまったのか。
ずっと生き辛かった。
静かを求めた。
静かさなんか、生きてる間中、訪れない。
心を無にして部屋を出る。
聞こえる音はスッスッと床を擦る自分の足音と、少し早くなった自分の鼓動。
キッチンについて、ガチャガチャと手当たり次第に探す。
目的の物が見つかるまでガチャガチャとなる扉や食器の音を耳で聞く。
目当ての物が見つかった。
なるべく音がしないようにだけ気をつけて、自分の鼓動の発信源にアイスピックを入れていく。
これでやっと静かになる。
そういえば、僕の声はどんな声?

9/19/2023, 11:23:06 AM

例えば、夜中の12時に明日の朝8時に、あなたは死にます。
って言われたとして、
何度でも繰り返して構いません。8時間は自分の生きてきた過去に戻る事ができます。
って条件が付け足されました。
どうしますか?

死んだおじいちゃんおばあちゃんに会いたい
→8時間後に会えるかも?
公園でドッチボールして遊んでた日に戻りたい
→何時間?
親孝行したい
→いつ、何をすれば良かった?
合格発表の喜びをもう一度
→結果を知ってるんだからドキドキしない。
子供が生まれた日
→今、生まれたその子が生きてるのに?

安い時計みたいに時間は一方通行の方がいい。
8時間後に死ぬって知らされずに8時間過ごしたいって思うわ。

世界中の時が止まったとて、なんもする事ない。
いつものように寝て、目が覚めてお弁当作って、いってらっしゃいって言って…

私が死んだとて時間は進む。

9/15/2023, 11:56:44 AM

「明日は朝から体育だねーだるー」
「夜ご飯食べた?うち来る?」
「今日、バイトだっけ?」
「おーい」
「寝てんの?」
「明日の朝モーニングコールしようか?」
「携帯みろー」
「私も寝るよー?」
「夜中でも起きたら返信ヨロ」

朝、学校に行ったら、友達は帰らぬ人となったと聞いた。
LINEなんかじゃなく電話すればよかった。
違う。会いに行けばよかった。

心友みたいなんじゃないし、友達って感じだったけど、なんとなく心配な子だった。

いつ、どうやって亡くなったなんかは知らない。
でも、生きてた時のその子の様子は多分、その子の親より知ってる。
『親の愚痴ばっかでごめんー』
ってよく聞いてたもん。

その親が喪主か。
葬式の時にぶちまけてやれる程、仲良くなれなかった後悔しかない。

学友、級友、友達。
間柄の名称なんてなんでもいいけど、LINE返信してくれたら助けに行くくらいできたと思う。
私は友達のLINEのアカウントを絶対消さない。

9/8/2023, 11:15:46 AM

10年前に買った安いウェディングドレスをクローゼットから引っ張り出す。
隣には彼のウエディングスーツ。
お金なかったから、レンタルにしようって言う彼に、ドレスだけは自分で買うからと買ったドレス。
スーツはレンタルのものを買い取らせてもらった。

高校生の頃から付き合って、大学は別々だったけれど別れる事もなくお互い社会人になったばかりの頃

『結婚してください』

って言ってもらったのは近所の公園。
お金貯めて、式や披露宴をやりたかった私。
食事会程度の披露宴にして、フォトウェディングにしようと言う彼。
アパレルの業界に進んだ私はドレスだけはとワガママを通してもらった。
安いドレスにアレコレ自分でアレンジして、世界に一つだけの私だけのドレス。

写真だけでも撮りたかったなぁ。

フォトウェディングの予約をした後、すぐに事故で眠ったままの彼。

入籍すらまだだったのに。

それからは、両家両親から反対されつつも、彼の入院代を稼ぐために働き、時間が許す限り病院にいた。

今日はプロポーズをもらってちょうど10年目。

本当はウェディングドレスを着たかったけれど、彼もスーツに袖を通した事はないし、何よりそんな格好で病院に行けば目立ってしまう。

だから、白のワンピース。いつものお花を持って病室に入る。

いつもと変わらず、眠ったままの彼。

頭を撫で、胸の鼓動を確認し、手を握る。
暖かい。生きてるね。

「結婚してください」

今度は私が言う。返事はない。
彼の唇に自分のそれを重ねる。

今でも大好き。

彼の命を繋ぐビニールの管を抜く。

私はそのうちの針のある一本を私の腕の血管に差し込み、抜いた針のある反対の方からフーと息を吹き込む。

彼の隣に横たわり、手を握る。

お互いの胸の鼓動が止まる時、一緒にいられますようにと瞼を閉じる。

9/6/2023, 12:37:01 PM

小学校に上がる前、お母さんが珍しく夜の散歩に連れ出してくれた。
いつも仕事で忙しく、夜に家にいる事さえ珍しいお母さん。
私にはおじいちゃんもおばあちゃんもお父さんもいない。
私とお母さんのために働いてくれるお母さんの迷惑にならないようにと過ごしていたはず。

と、言うのも、珍しい夜の散歩の途中の踏切で遮断機が降りて、カンカンカンカンカンカンカンカン
と、鳴り響く警報音を聞こえていないかのように、私ににっこり笑いかけて遮断機を潜って私の手を引くお母さん。
「ダメだよ」って声も聞こえないのか、お母さんはにっこり笑って「大丈夫よ」って言う。
怖いからブンブン首を横に振って行かないと意思表示。
行かないでって強くお母さんの手を握る。

お母さんとの記憶はそれが最後。
良くわからないけれど、一緒に暮らしていた小さな古いアパートでお母さんは死んだらしい。

次の記憶は親のいない子がみんなで生活する施設。
私はそこでもなるべく人に迷惑かけないようにと心がけていた。
毎晩、施設の人が絵本を読んでくれるけれど、桃太郎なんかだと、鬼退治の後は、あの日のカンカンカンカンって踏切の音が頭の中で大音量で聞こえた。
他にもグリム童話のお菓子の家が出てくる本も、お菓子の家に着くまでは話が聞けるんだけど、兄弟が逃げ出すところからカンカンカンカン…
そのせいで物語の終わりがわからないまま過ごした。

カンカンと踏切の音が聞こえる事はそれだけではなく、私に会いに来た人の中にも会った瞬間にカンカンなる人もいたし、同級生もしかり。

私が施設を退所する頃に、私は結構な財産持ちである事を知った。
孤児院育ちの母が生涯かけたって稼げる額ではなかった。
だから、保険金の他、私の見た事もない父親は随分な金持ちで手切金に渡したのだろうと予想した。
高校を卒業し、大学には行かず高卒で仕事を始めた。
出会う人の中にもカンカンなる人がいたから、そういった人とはなるべく関わらず生きた。

ただ、高校生の頃から憧れて、恋焦がれ、高嶺の花と諦めていた男性と仕事で偶然に出会った。
遠くにカンカンとなり響くのは危機感を薄くした。
少しずつその男性との距離が近づいて、カンカンなる音も同じスピードで大きくなった。

慣れとは怖いもの。色ボケも怖い。
プロポーズされた日には、相手が何と言ったか聞こえないほどの大音量でカンカンカンカンカンカンカンカン…
頷くのが精一杯だった。

それからは毎日が鳴り止まない警報音。
式もあげた。新婚旅行にも行った。
その間も警報音は鳴り止まない。
幸せなはずなのに、幸せだと感じない。
気がつけば、母が私を誘った踏切の前にいた。
あの時と違うのは私は1人で、踏切の反対側に夫がいる事。それと、線路にいないはずのお母さんがいる。仕方ないなって顔して私に手を差し伸べてくれている。
もう、カンカンカンカンとなっているはずの警報音は聞こえない。
その代わり、お母さんがパチン、パチンと手を鳴らして『手のなる方へ』
って声が聞こえた。
拒む理由なんてない。
あの日、お母さんは1人で死んだ。
本当は私も一緒に連れて行きたかったのに。
私の人生における不幸は、警報音で知らせてくれた。
音ではなく、お母さんは目で声で危険を知らせてくれている。
私の人生の終わりの時を告げる、深い慈愛に満ちた笑顔で。

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