てふてふ蝶々

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ごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるさい。
何を話してるのかまでは聞こえない。
耳栓してるし。
ベッドホンの時もあるけど。
でも、鳴り止まない声?音?
どうしたら静かになる?
遠くの田舎なら静かに暮らせるだろうか?
安眠の為に、とりあえず一泊で寂れた旅館に行く。
あぁ、喧騒もなく、木の葉の揺れる音、水音だけ。
理想的な環境だ。
夜はゆっくり眠れるだろう。
そう思ったが、薄暗くなると、町民放送?って言うなんかわからない時報が大音量で流れて、心臓が飛び出るほどびっくりした。
そのあとは、農作業か何かから帰ってきたらしき人達の酒盛りの声がする。
やっと静かになったかと思えば虫の声。
もう、この世には静かな場所なんてないと思った。
人の声が嫌い。
そんな自分は人として生きていくには無理だろう。
歳をとり、人以外の鳥の声、虫の声までうるさいと感じて、表現しきれない程の嫌悪感を感じる。
防音室で生活しよう。
都内に戻り、なるべく小さな家を買い、完全防音の部屋も作った。
若い頃は音に対する敏感さは収入になった。
今ではお金の価値とは何だ?と捻くれた考えしかなく無駄に金ばかりある。金は音を立てず静かにして役立つ。
この防音室で安心を得て、辛かった若い頃の自分を慰める。
もう、生活のほとんどがこの防音室でいるようになったある晩、久しぶりに『うるさい』と思って目が覚めた。
防音室に一人きり。
無音のはず。
耳を澄ませる。
何か聞こえる。
一定のリズム。
部屋のどこかに隙間ができたか探しても見当たらない。
部屋の真ん中にあぐらを組んで座る。
耳を澄ます。
一定のリズムは自分の鼓動だ。
そうか。声が苦手なんじゃない、生きてるって音が苦手なんだ。
なんだか腑に落ちた。
『うるさい』と感じてベッドホンで聞いたクラシックは電子化されたものだった。
風に吹かれる木の葉の音。は心地よかった。
年齢とともに敏感さすら頑固になり続け、ついには自分の心音すら『うるさい』と思うようになってしまったのか。
ずっと生き辛かった。
静かを求めた。
静かさなんか、生きてる間中、訪れない。
心を無にして部屋を出る。
聞こえる音はスッスッと床を擦る自分の足音と、少し早くなった自分の鼓動。
キッチンについて、ガチャガチャと手当たり次第に探す。
目的の物が見つかるまでガチャガチャとなる扉や食器の音を耳で聞く。
目当ての物が見つかった。
なるべく音がしないようにだけ気をつけて、自分の鼓動の発信源にアイスピックを入れていく。
これでやっと静かになる。
そういえば、僕の声はどんな声?

9/22/2023, 12:33:52 PM