私は長女。
だから私はいつも割りを食ってばかり。
お母さんもお父さんも初めてだから仕方ないこともあるとは思う。
定期テスト前の大変さは、時代が違うからなのかわかって貰えない。
スマホやゲームのない時代の大人に私の苦労はわからない。
進学の度にある受験は昔と違うし、なんか教科書も違うんだって。
なのに、私の苦労も知らないで、昔の価値観押し付けられるのが凄く嫌。
朝は早く起きなさいー。早起きは三文の徳。なんていつの時代よ。遅刻しなけりゃいいじゃん。
転ばぬ先の杖?何が起こるかわからないのにたくさんの杖を作っておくなんてナンセンス。
今の時代は臨機応変でしょ?その場になった時にどう行動するかが重要。
その点、弟は今の時代を生きてる私をみてるから、いいよなって思う。
私、クソほど努力してなんとかまぁまぁな成績だけど、私の助言も聞かない弟はバカ。
勉強すれば点数取れそうなのに、全然勉強しないからイライラする。
親も、弟には甘い。
弟は、親の顔色伺うのが上手だから下の子って得だなって思う。
私だけ、こんなに頑張ってるのにさ。
朝起きなさいって文句ばかり。私、文化部だから時間だけは自由に使えるんだよね。
その点、弟は早寝早起き。運動部の宿命だよね。可哀想
私の部屋汚いから無くしたもの探すのに無駄な時間が…うんたらかんたら言ってくるけど、別に私の部屋が散らかって迷惑かけてないし。
弟は、男子だからコスメもいらないしそもそも持ち物が少ないから片付けるの楽だよね。
そんな事比べられても迷惑。
それより私の成績見てよ。78点とか76点とか。
「あと2点で評定5だったね」なんてテンション下がる事しか言わないで。マジムカつく。
前日、徹夜で頑張ったのに。
なんで私だけ褒めて貰えない?
弟なんて欠点ばかりなのに、何も言われない。
長女って損ばかり。
なんで私だけ褒めて貰えないの?
こんなに頑張ってるのに。
親の言うこと聞かないから?
それって親が間違ってるのに?
なんで私だけこんな苦しい思いしないといけないの。
大学の第一希望はあと評定が、1足りなかった。
第二希望は英検の点数が100点足りなかった。
第三希望は…
少しづつ落ちてるのにさ。
私、強がってるだけなのに。
親は「どうせ私達の話きかないでしょ」って。
親のくせに、私の進路の心配もしない。クソだよね。
どうして私だけ苦しまなきゃならないの?
父の浮気が原因で、専業主婦の母はキッチンドランカーと言われるアルコール中毒。
私は進学校と呼ばれる私立に通う高校生。
進学以外の選択肢はないと信じていた。
だから、ことごとく失敗した受験の結果で、専門学校に通う手続きは終わって、まもなく卒業。
入学式までの間は母と一緒に買い物に行ったり、料理をしたりして、母からアルコールを遠ざける努力をした。
4月。父は帰宅する事はなくなったが、給料の振り込みは変わらない。
5月。ゴールデンウィークは母と過ごす事を心がけつつ初めてのアルバイト。
6月。父、久しぶりの帰宅。母と喧嘩している様子。
7月。母がお酒を隠していた。ベッドの裏から発見。
8月。父の勤める会社が倒産。
お盆はいつも父の実家に帰省していたけれど、今年はどうするんだろうか?と考えながら眠りについた。
夢。
私の前に2本の道がある。
隣にはもう1人。私にそっくり。鏡に写したような私が言う。
「私は、片一方の道を選んで終わった先から来たの。
どちらを選んだかは言えない。でもね、私の人生やり直すならここかなぁって思っただけで、やり直したいとは思っていないのよ。」
夢だし。夢だから。
「私の人生って幸せ?」
鏡写しのような私は笑って
「ううん。ちっとも。だから、今チャンスをもらったのかなぁ」
と。どっちかの道を選んだら、幸せになれないらしい。
「学校を続けるか。辞めるか。って事?」
と、今の選択肢を問う。
「まぁ、短絡的に言えばそうなるかも知れない。そうじゃない選択も分かれ道がたくさんあるよ」と。
じゃあ、分かれ道はここじゃなくてもいいだろうに、私の未来を知る人は今、来たのだ。
「どうして今なの?」と、問う。
「お盆だから。」と。死んだ人はお盆に帰ると聞くけれど、本人に帰るのにもお盆は関係するのだろうか。
死んでみなければわからない事もあるのだろう。
「アドバイス的な何か。選び方とかは?」
こっちの道に進んでって言われた方が楽なのになって思うけど、どっちか言えないらしいかさ。こう聞くしかない。
「んー?どうなんだろうね?私の選んだ道は歩んで欲しくなくて来たけど、その先にも分かれ道がたくさんあったし。私は最善を選んだつもりだったんだけどなぁって思ってるから、いいアドバイスなんてできないや。」
あははと笑う未来から来た人に殺意を覚えたけれど、死んだらしい人はなんともないみたい。
「でもさ、生きてりゃ探せばいい事の一つや二つはあるよ?億万長者とか世界一の美人とかは無理かもしれないけど。幸せじゃない私の選んだ道にも一つは誇れるものがあるよ。」
専ら楽観的に生きてきた私と同じなそっくりさんは死んでも楽観的らしい。
「誇れるものって何?」と聞く。
鏡写しの顔の私は鋭く真面目な顔になって。
「それは進まないとわからないよ。今教えてあげたらダメな事だと思う」
夢なのに、途端に怖くて「そう…」としか言えない。
「お母さんは元気になる?」代わりにそう聞く。
鏡写しの私は
「わからないけれど。難しいかもしれないね」と、凄く凄く悲しい顔をする。今後、母がどうなるか想像がついた。悲しいけれど。
そうか。母の人生は母のもので、私のものじゃない。
私がそう考えたのがわかったのか、鏡写しのように私にそっくりな人は酷く優しい顔になって。
「ありがとう。」
そう言ったか同時に目が覚めて、いつもより少し早起きな事に気付いて、二度寝を決める。
次に目を覚ましたのは母が起こしに来たから。
お母さんに起こされるのは久しぶりだなぁと寝ぼけながらのっそり起き上がる。
お母さんは化粧をし、お出かけ着を着ていて、びっくりする。
どうしたの?って聞きたいのに声も出ない程驚いた。
お母さんは
「私。私の生きたいように生きるから。父さんの実家には行かないわ。あなたどうする?」
と。
そう言えば、私はお母さん似だったっけ。
同じような毎日で、学生なら当たり前。
重たい荷物を背負って朝出発するようになった小学一年生。どんどん荷物は増えて。
中学生になると部活の道具が追加。
高校は資料集や問題集が格段に分厚くなる。
紙って重い。
だから、背中の荷物を支えるように少しづつ前屈みで歩く癖がついてると思う。
今、高校三年生。
来年からは背中の荷物とオサラバしたい。
だから、今、頑張り時、踏ん張り時。
手には単語帳。スマホはポケット。
歩きスマホはダメだけど、単語帳なら叱られない不思議。
ジリジリと焦がすような日差しは分厚いリュックが守ってくれる。
照り返しは単語帳が守ってくれる。
前見て歩く。というより下を向いてばかりだなと。
重たい荷物に気合いを入れて、ヨッコイショと空を見上げる。
青いなぁ。アオって漢字はいくつあるだろう。青を意味する英単語はいくつあるだろう。
無限の単語を空に浮かべる。
来年は、この青空を満喫してやる。海にも山にも行く。
今だけ。今年だけ、この綺麗な熱い空に背を向けて前に進む。
後ろからやってくる入道雲から逃げてやる。
何度やっても千日手。
相手も自分も負けず嫌い。
棋力は同じくらいだろう。
負けるくらいなら千日手に持ち込んで、もう一度始めから。
夏休みずっと将棋ばかり。
約束もしていないのに、毎日お互いが対戦相手になってしまう。
お盆までには「参りました」を勝ち取って、終わりにしようと家に帰っても詰将棋。
明日こそは!と挑むけれど、相手も昨日より鋭い手。
負けてたまるかと千日手。
明日からお盆休みになる将棋クラブ。休み前の最後日にもやっぱり千日手。
「もう終わりにしよう」
そう言った見慣れた相手の顔を見る。なんで!勝ちたい勝ちたい勝ちたいっていいたいけれど、そんな子供じみた事したくない。
「どうして?」と、だけ聞く。
相手も嫌々ながら終わりにしようとしている雰囲気。
「夏休みの宿題終わってないから」
はっ!そうだ。1ページもやっていない事に気づいて青ざめる。
「…そっか。じゃあ仕方ないね」と。自分はさも終わってるような顔して言う。
「うん。ごめんな」と、苦い顔で言う相手。
「仕方ないよ。宿題なら。」と苦い顔で返す。
「あとは自由課題と読書感想文だけだから、お盆明けて1週間後にもう一度だけ将棋さしてくれる?」と、相手。
マジで!1ページも進んでない問題と自由課題に読書感想文残ってますけど。な自分はスマした顔で、
「うん。盆明けの1週間後の一戦で終わりにしよう」
すでに完敗でお手上げの気分だけど、おばあちゃん家行っても遊ばないで宿題やろうと決意。
夏の最後の戦いは10日後。
僕が小さい頃は君も小さくて、4本足で移動して、僕といっぱい遊んで、たまにママに叱られて。
君が朝からどこかに出かけるようになったら、ママと一緒に家で君の帰りを待って、君と公園に遊びに行くのが凄く楽しかった。
ママと君は手という前足を握って、僕はリードという紐が繋がれた。
ある時から君の帰ってくる時間が遅くなって、僕はもう待ちくたびれて、ふて寝する時間が長くなった。
それでも、日が暮れる前に帰ってきた君と2人で目一杯走って散歩するのはとても嬉しかったよ。
その頃からはママも昼間は出かけるようになったから僕はこの家が余所者に入られないように気をつけて過ごすようになった。
日中、この家を守るのが僕の仕事だってパパにいわれて美味しいジャーキー貰ったんだ。
でも、なかなか余所者は入ってこないから、楽な仕事だった。
たまに、塀の上にいる僕によく似た4本足で歩くやつに挨拶するようになった事は家族の誰も知るまい。
僕は家から出られないし、あいつは家には入れないから。
僕の散歩は日が暮れてから行くようになった。
君だったりママだったり、たまにパパだったりした。
パパとの散歩はいつもと違う道で楽しかった。
たまに、家族の誰かがこっそりと泣いていると、理由はわからないけれど、僕が一緒にいた。
一緒にいる事がいいような気がしたから。
嬉しいことはみんなで喜んだ。そんな日は決まって僕のご飯も豪勢になる。
君が大好きになった子を家族の誰よりも先に僕に紹介してくれるのは僕と君の秘密だよね。
僕はずっと家族で一緒にいるんだと思っていたのに、君は自分の荷物と一緒に出て行って、その日から帰ってこなくなった。
僕は、ママとパパの三人で暮らした。
ママは変わらず僕の世話をしてくれた。
ママもパパも凄く元気なのに、僕は楽しい散歩も走るのが遅くなった。
君が夏の暑い日に帰ってきたときは凄く凄く嬉しくて、おしっこ漏らしちゃってごめんね。
あまり走れなくなった僕と君だけで散歩に行ったら、君は昔みたいに汗だくになるほど走ってくれて、僕はついて行くのが精一杯だったけど、君がリードを離さないように頑張ってついて行ったよ。
でも何日かしたらまた君が帰ってこなくなった。
ママとパパと僕の暮らしは何不自由な事はないけど、いつも何か足りない気分。
君がいないと寂しいよ。
冬の寒くなってから、また君が帰ってきた。
今度こそはもういなくならないでって思ったのに、君はすぐにいなくなる。
君がいないと、家の中は凄く静かになるんだよ。
家族のみんな元気なのに、僕はなんだか起き上がるのも億劫で、ママが僕の好物ばかりくれるのに食べられなくなってきた。
毎日、僕の散歩をしてくれるけれど、みんなと繋いでたリードは使わなくなった。
その代わり抱っこで外に連れ出してくれる。
いつか仲良くなった塀の上のやつもしばらく見てない。
僕たちは二本足の君たちよりも早く歳をとるんだね。
知らなかった。
僕さ、多分君たちより先に天国に行くみたいだね。
その時はさ、リード持って行きたいな。
手の代わりのリードで繋がっていたいんだ。
いつか君たちが天国に来る時はリードを引っ張って連れてってあげるね。