早苗「正直、悪かったと思っているんだ。反省も後悔もしているとも。でも、あの時は面白そうだと思ったんだ。まさかこんなことになるなんて思いもしなかったからね……」
翔吾「俺も、お前をもっとしっかりとめてりゃ良かったって思うよ」
早苗「いや、いや。君は悪くないんだ。それにこれは僕がやると言い出した事だから君は先に帰ってくれて構わない。僕一人で頑張ってやってみせるとも」
翔吾「無理だろ」
早苗「ムリだと言われてもやりとげてみせる……」
翔吾「お前な、この状況みてまだ一人でどうにかできるって言えるのかよ」
早苗「……」
翔吾「どうだよ、早苗」
早苗「……ムリだな」
翔吾「だろ? なら2人でさっさとしちまった方が早いだろうが」
早苗「……本当にすまない。僕が先生に夏休みの宿題のプリントのホッチキス止めをしていく作業を面白そうだから手伝いたいと言ったばかりに……」
翔吾「数学だけとはいえ全校生徒分あるからな」
早苗「なんなんだこの枚数……。しかも僕らの学年が一番枚数が多いだなんて……! 一番知りたくなかったぞ……!」
「花になりたい」
宮川翔吾が机に向かって勉強をしていると、不意にそんな声が聞こえてきた。声の方へ目を向けると同じく勉強をしていたはずの高宮早苗が、国語便覧の百人一首のページを開きながら頬杖をついている姿があった。
「花はいいよなあ。咲いているところから散り際まで美しくて」
その言葉に翔吾は首を捻った。正直、花がそこまで美しく散るものだと、翔吾は思っていない。大半の花の散り際は萎む。早苗は月下美人や朝顔の萎む様を見たことがないのだろうか。美しい花がちぢれて皺だらけになる姿は、どこにも美しいと思えるものがない。
翔吾がそんなことをいって早苗に聞かせると、早苗が鼻で笑ったような息を吐いた。
「全く、君はよく花を観察しているが趣がないな。それに、この花というのは梅や桜のことだ。風に身を任せて散っていく美しい花たちだよ。美しいとは思わんかね」
そう言われてそういうことかと呟いた。梅はとび桜は散るとは誰がいった言葉だったか。確かに、梅や桜の花の終わりの姿、雪のように風に流されて降りそそぐその様は大層美しい。
ただそれは、萎む前に散るからであり、風に身を任せられるからではないかと思う。
そして、高宮早苗という人間は、萎む前に散りそうかと言われたら、まあそんなこともあるだろうが、多分風に身を任せられる人ではないように思う。
「台風の日に外に出て風には負けないとか言ってたやつが言う言葉じゃねえなあ」
そうぼやくと早苗から酷いやつだと抗議の言葉が飛んできた。
──────
久しぶりに地の文つきのものを書いた気がする。
翔吾「『おうち時間でやりたいことはなんですか?』なんだこれ?」
早苗「あ、ショーゴくん。これはあれだ。所謂お題というやつだ。お題にそった内容のことを言うんだよ」
翔吾「ふーん」
早苗「しかしこれはあれだな。学生の僕らにはあまり関係ないものに見えるのだが……。でもまあ面白そうだからいいか」
翔吾「いいのか」
早苗「いいんだ。と、言うわけでおうち時間でやりたいことなんだが……。そうだな。本も読みたいしゲームもしたいし勉強をするのも手だし遊ぶのもいいな」
翔吾「ほとんどいつも通りじゃねえか」
早苗「正直おもしろければ日常でも非日常でも関係ないからね」
翔吾「そういうもんか」
早苗「そういうものさ。で、翔吾くんはおうち時間でやりたいことは何かな?」
翔吾「そうだな……お前が前に言っていた段ボール迷路を作ってみるとかだな」
早苗「お、いいね。暗い狭いゴールどこだって言いながら遊ぶのはおもしろそうだ」
翔吾「あとはあれだな。今の時期なら梅の実がとれるころだろ。実をとってきてジャムにするのもいいな」
早苗「なんだいそれ! 君がジャムをつくるだなんて実におもしろそうじゃないか! というか料理が出来ることに驚きだよ」
翔吾「弁当は自分で作ってるって前に言っただろうが。あとは……そうだな。お前がやりたがっていた歌詠みをするのもいいし、蘇を作ってみるのもいいな。それから……」
早苗「ショーゴくん、ストップ」
翔吾「なんだよ」
早苗「君さっきから僕がやりたいことを言ってないか? 君がやりたいことをいっていいんだぞ。そもそも、なんで僕らが同じ家にいる前提なんだい? 僕ら確かに一緒にいることが多いけど、住むところは別々だろう?」
翔吾「俺がやりたいことを言ったつもりなんだがな。けど、そうだな。お前がうちに来ないで一人でいるときにやりたいことは何かつったら……今は手紙をかくだな」
早苗「それ、誰宛?」
翔吾「お前」
早苗「さては君、からかっているな? というか、あれだろ。この前花火しようぜって学校に花火持ってきて二人で怒られたの、まだ根に持ってるだろ?」
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作者のおうち時間でやりたいことは「布団を干す」です。
翔吾「お前は本当に出会った頃のままだな」
早苗「それって子供のままだってことかい?」
翔吾「ある意味ではそうかもな。ま、いいんじゃねえの」
早苗「いや、いや。納得いかないぞ! 僕……私はこれでもちゃんと成長しているだろう? ほら、こう、体つきとか」
翔吾「貧相なのには変わりないな」
早苗「ショーゴくんは他人を慮るという気持ちはないのか?」
翔吾「お前にはないな。てか、気を使ってほしいのかよ?」
早苗「……いや」
翔吾「ならいいだろ。それに、この関係でいられるなら子供のままでも悪くないだろ?」
いなくなっちまったあとで言うのもどうかしてるが……
「床の間に差し込む冬の朝焼けを 二人眺めたいくたびの朝」
今でもお前の背中を思い出すよ。最期までさすってくれと言っていたお前は、確かに俺を愛していたんだな。
──────
多分おそらく全力で、静かに愛を叫んでいたあいつに。