しろくま

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12/13/2023, 12:14:39 PM

【愛を注いで】

ポトポトっていうより、ダバダバだよ。
え?何の話かって?
愛の話。
愛って、盛大に注ぐもんじゃなく、毎日ちょっとずつだと思うんだけど、おれの恋人は……毎日ダバダバ愛を注いでくれる。
そりゃもう遠慮なく、惜しげなく。
愛されてるって嬉しいし、ほんとにありがたい。
おれも大好きだし、心から愛している。
それは間違いないよ。
でもさぁ……人前で手を握るとか、イチャイチャするとか、あり得なくない?
付き合いたての高校生じゃないんだよ。
ヤなんだよ、そういうの。
だけど、おれの恋人はそのあたりがわかんないらしい。
毎年クリスマスなんて、もう、口にするのも恥ずかしいくらいベタベタの甘々だからね。
あの素敵な歌声で甘くクリスマスソングを歌ってくれて、キラキラする指輪をそっと嵌めてくれるんだよ……。
え?
ノロケ?
こういう話って、ノロケって言うの?

12/10/2023, 2:36:23 AM

【手を繋いで】

「君の味方だよ」
その照れた笑顔が子どもの頃とちっとも変わらなくて、おれは嬉しい。
ドキドキしながら君と手を繋いで、眩しい光と溢れる歓声を初めて浴びた時も、君はそう言ってくれたっけ。
いつだって君はおれの味方。
おれだって君の味方だよ。

12/7/2023, 11:53:16 PM

【部屋の片隅で】

ふつーの人が見えない「何か」が見えちゃうんだよ、おれ。
オバケ?ユーレイ?なんか、そういうやつね。
子どもの頃からだから、あんまり怖いとも思わないよ。
母ちゃんや姉ちゃんも「見える」って言うし。

でね、おれの恋人はそういうの、ぜんぜん見えないし、感じない。
劇場とかスタジオってけっこうオバケがいるんだけど、アイツは気づきもしないから、「何か」をスニーカーで踏んじゃってたもん。
そんでもって平気なの。
オバケも逃げちゃうくらいの陽キャ。
逆にすごくない?さすがだよね、カッコイイ。

あ、でね、今日も仕事場の控え室の隅っこにオバケがいたの。
可愛い男の子。目がくりっとして、八重歯で。
ちょこんと隅っこに座って膝を抱えて、真面目な顔でおれたちを見てる。
悪いことはしそうになかったから、おれは気にしないようにしてた。

そしたら、急にアイツが変な顔しておれにいった。
「あそこに、ちびっ子の頃のおまえがいるんだけど」
ドキリとして部屋の片隅を見た。
男の子はジッとおれとアイツを見つめているの。
その時、突然おれの脳裏に何十年も前の出来事が蘇った。
この同じ控え室で、中学生のアイツが“彼女が出来た!”って、仲間に自慢してたこと。
それを聞いたおれは悲しくて、何故悲しいのか分からなくて、部屋の隅っこで膝を抱えて座っていたんだ──。

色んなことがあって、オトナになって、おれもアイツも苦しんだ時もあった。
でも今はおれたち、めちゃ仲の良い恋人だよ。
心配しなくていいよ、子どもの頃の“おれ”。

隣に立つアイツの手を握ると、“おれ”は安心したように八重歯を見せて笑い、そしてすうっと消えた。
「──オバケ、見えたんだ?」
隅っこを見つめたままの恋人をからかうと、アイツは息を飲んでおれを見つめて、「オバケなんか見てない」って強がる。
「だってオバケが見えたんだろ?」
「オバケは見てない。初恋の相手を見ただけ」
ギュッと繋いだ手を、子どもの頃の“おれ”に見せてあげたい。





12/5/2023, 2:36:22 PM

【眠れないほど】

「……眠れない?」
優しい声にドキリとする。
背中合わせに寝てるのに、なんで気がつくの?
モゾモゾと寝返って、君の胸に額を擦り付けると、柔らかく頭を撫でてくれる。
「なんか、ドキドキして眠れない」
「明日が楽しみ過ぎて?」
「うん」
「遠足前の小学生かよ」
からかうように言って、君はふふふと笑う。
「ホントは俺も楽しみ過ぎて眠れない」
2人とも眠れないほど明日が楽しみだなんて。
明日が来れば2人で──。
クローゼットの奥にしまったビロードの小箱は静かに明日の出番を待っている。

11/28/2023, 11:14:53 PM

【終わらせないで】

多趣味のおれたち。
若い時はびっくりするくらい趣味が合わなくって、アウトドア派のおれとインドア派の君は、休日でも別々に過ごすことが多かった。
仕事でも一緒で、この上休みの日まで一緒にいるなんて有り得ない、互いの領分を尊重するんだ──なんてカッコつけてたんだよね。

でも最近はお互いの趣味を一緒に楽しんでる。
ただ“一緒にいる”ことがどんなに貴重で大事なことなのか、この歳になると身に沁みてわかって来たんだ。
君がキャンプにやって来たり、おれが君のおススメのアニメを観たり。

自分だけの世界も大切だけど、今のおれたちは2人の世界をゆっくり楽しんでる。
こんな時間を終わらせないで欲しい。
そんなふうに言ったら、君は「終わんないよ。ハッピーエンドまで時間はかかるから」って平気な顔で答えた。





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