【鋭い眼差し】
アイツさぁ、普段はふにゃふにゃしてて、「鋭い眼差し」って言うより「お地蔵さまみたいな眼差し」じゃん。
それがさぁ、うん……夜にさぁ……2人きりの時に見せる目は鋭くて……カッコいいんだ……。
あの目に弱いんだよね。
なんでか知らないけど、言うこときかなきゃ、って思っちゃう。
アイツの鋭い眼差しに捉えられたら、もう逃げられない。
ぜんぶ見透かされてる。
そんな時のアイツの手、なぜか金色の毛に覆われていて、耳は尖っていて……口元には牙みたいな白い歯が光るんだ。
満月の夜のアイツ、普段とはちょっと違うみたい。
なんでか知らないけど。
【高く高く】
高く飛ぼう。
俺たち、手を繋いで高く高く飛ぼう。
青空にも、虹にだって、白い雲にも手が届くくらい高く。
星にも、月にも手が届くくらい高く。
高く高く飛ぼう。
俺たちは今はこんなに高く飛べる。
手を繋いで、高く高く。
【子供のように】
君が好き。
初めて言ったのは中学生の時。
まだお互いに子供だった。
そしたら君は大きな目をもっと大きくして、「ウソだぁ」って笑った。
君が好き。
次に言ったのは高校生の時。
もうお互い子供じゃないのに、無邪気さを装っていた。
そしたら君は八重歯で唇を噛み、「信じらんない」って横を向いた。
君が好き。
最後に言ったのは昨日だった。
2人はすっかり大人になって、子供のように振る舞えない。
そしたら君は俯いて、「うれしい」って舌ったらずに俺の手を握った。
【放課後】
放課後に街へ遊びに行くのが楽しみだった。
高校生のおれとおまえ。
先輩のおまえを呼び捨てにできるのはおれだけで、それだけで「とくべつ」みたいで嬉しかった。
コッソリ制服から私服に着替えて学校を抜け出し、オトナのいない放課後を楽しんだ。
ビリヤードにカラオケ、映画に行ったし、楽器屋で覚えたてのギター弾いてみたり。
おまえは平気な顔で街中でおれの手を握るから、おれ、しんぞーが飛び出すくらいドキドキしたんだぞ。
「じゃあな」って駅で別れる時、決まっておまえは自販機の陰におれを連れ込んで、ほっぺたにキスしてくれた。
嬉しくて、切なくて、明日も会えるのに、別れるのが辛かったっけ。
今、おれたちは仕事終わりに街に遊びに行くことはなくて、スーパーに寄って買い物をして、家で一緒に平凡な夕飯を食べている。
もう放課後の楽しみはないけど、オトナのおれたちも結構楽しいよ。
【カーテン】
大切な仕事に一区切りついたからメシに行こう、とおまえはおれを誘った。
何の気もなく応じたら、高級ホテルに連れ込まれた。
清潔な制服のボーイさんに案内され、高層階の豪華なVIPルームに通される。
「メシじゃねーじゃん」
恥ずかしくて悪態をつくおれに、おまえは「ルームサービスでメシ食うの。晩飯と朝飯の両方」と平気な顔だ。
「おれ、泊まりの準備してねーよ。コンタクトとかさぁ」
「大丈夫、用意してるから」
おまえが珍しくカバン持ってると思っていたら、そういうことか。
照れ臭くて多分真っ赤になってる顔を隠すため、おまえに背を向けてカーテンを開けた。
大きな窓からは、まるで夢みたいな夜景が広がっていた。
黒いベルベットに宝石をばら撒いたような光が美しい。
いつも暮らしているトーキョーが、どこか遠くの知らない国の街のようだ。
思わず見入っていたおれの肩を、おまえの優しい腕が抱く。
「ここの夜景気に入った?」
「うん、チョー綺麗。なんか外国みたい」
「本当は一緒に旅行行きたかったけど、スケジュール厳しいじゃん。だから、その代わり、な」
夜景の綺麗なホテルで2人で一晩過ごす。
カーテンは開けたままで。
誰も知らない2人を、誰かに知られてもいい。