月園キサ

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4/17/2024, 12:45:14 PM

#柚原くんの一目惚れ (BL)

Side:Luki Ichinose



この街の桜の開花宣言を聞いてから1週間も経たないうちに、突然雨が降ってきた。何だか妙に優しい雨だ。


「これがいわゆる涙雨ってやつかぁ〜!ねぇねぇ瑠貴くん、傘一緒に入ってもいーい?」

「ん?おう、どーぞ」


今日、これから俺は隣にいる彼女…里緒に別れ話を切り出す計画を実行する。
里緒は俺と同じ中学校出身で、今年俺は地元の男子校に、彼女は隣町の女子校に入学した。
彼女の「好き」の圧に半ばゴリ押しされる形で付き合うことになって約半年が経つが、俺が彼女と別れたい理由は2つある。

1つ目はさっぱりした性格と見せかけて、実際はかなり粘着質だと最近判明したから。そして2つ目も最近知ったことだが…


「ねぇねぇっ、今通り過ぎたお兄さんイケメンじゃなかった!?彼女いるのかなぁ?」

「…ふーん…?」


…かなり惚れっぽくて移り気だからだ。
俺に好き好きアピールをしまくっていた半年前のアレは何だったんだ?と、正直いい気はしない。

とはいえ、里緒の本性に早く気付けずにずるずると付き合い続けていた俺も俺だ。
ということで、ここらで一区切りをつけようと思い立ち現在に至る。


「里緒」

「なぁに〜?」

「俺と別れて」

「…えっ?何で?え??」


だがしかしそう簡単には折れてくれないのが里緒なわけで。
これは作戦が少々長引きそうだ、と俺は小さくため息をついた。


「里緒のことを信用できなくなったから、別れてほしい」

「待って!?り、里緒の何がダメだったの?ねぇ!」

「…」


その時、俺は先週の入学式でたまたま同じ桜の木の写真を撮っていた同級生のことが頭に浮かんだ。
穏やかな桜吹雪の中、一瞬彼と目が合ったような気がしていた。

…こうなったら奥の手を使うしかない。


「たぶん俺らさ、それぞれ別の人を好きになってるんだよ。里緒も街中で見つけたイケメンの話しかしなくなったし」

「そ、そんなわけないってば!里緒が好きなのは瑠貴くんだけだよ…!」

「嘘つくなよ、いつまで本性隠し通せると思ってんの?だから信用できないんだよ」


俺は俺のできる精一杯の演技で、この付き合いに冷めきった自分を演じた。
そしてここからが第2フェーズ。俺を最低な男だとはっきりと認識してもらうために、里緒に俺への言い分をあるだけ全部吐かせていく。


「…そう言う瑠貴くんだって、里緒に好きって言ってくれたことそんなにないよね…?」

「言われてみれば…確かに」

「デートもいつも里緒の行きたいところを優先してくれてたけど、本当は決めるのめんどくさかっただけじゃないの…?」

「それもある」

「里緒が言わないと彼氏っぽいことしてくれなかったくせに、うまくいかなかったのを里緒だけのせいにしないでよ…!」

「…それは本当ごめん。受け身だったのは自覚してる」


このフェーズは少々心にダメージを負うが、それでいい。この半年間の決着をつけるためなら、俺はいくらでも悪い男になってやる覚悟だ。


「もういい!瑠貴くんなんかだいっきらい!!」

「それでいいよ、里緒」

「里緒ばっかり好きって伝えてたのバカみたい!分かったよ、別れてあげるっ!!」


あんなに穏やかだった雨も、少し雨脚が強まり始めた。
真新しいセーラー服をびしょびしょに濡らしながら走り去る里緒の背中を、俺は何も言わずに見送った。

…この調子だと、明日にはこの公園の桜の殆どは葉桜になっていることだろう。

里緒の姿が完全に見えなくなった後で俺も帰ろうとしたけれど、俺の視界の端に突然見慣れた人影が映った。


「え、柚原?そこで何してんの?」

「…い、市ノ瀬…?」


柚原は傘もささずに、公園の隅にあるベンチの上にうずくまっていた。
彼に何があったのかは分からないが、入学式の時とだいぶ様子が違うことだけは理解できた。


「市ノ瀬…さっき一緒にいたの彼女だろ?追いかけなくていいのかよ?」

「あ〜…えっと。さっきフッた」

「は?マジ? …くしゅんっ!!」


大きなくしゃみをする柚原に傘を差し出して、俺たちは失恋トークを繰り広げ始めた。
…柚原の好きな相手が実は俺だったと知るまで、あと10分。



【お題:桜散る】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・柚原 愁 (ゆずはら しゅう) (受けみたいな)攻め 高1
・市ノ瀬 瑠貴 (いちのせ るき) (攻めみたいな)受け 高1

・里緒 (りお) 瑠貴の元カノ

4/15/2024, 11:30:53 AM

#柚原くんの一目惚れ (BL)

Side:Shu Yuzuhara



入学式の日、桜吹雪に包まれている同級生の横顔に恋をした。初めての一目惚れだった。
でもすぐにそいつには彼女がいると分かって、俺はおそらく俺の人生史上最速の失恋を経験した。

悲しいというより、むしろ間接的にフラレるまでが速すぎて呆然としている。
体感だと記録は約5分。RTAかよ。


「うは〜…間接的にフラレるのもなかなかキッツいのな…」


好きすぎてどうにかなりそうな一歩手前で止まってよかった、と思うことにしよう。そうしよう。

そう強がる俺の頬に、涙代わりの花弁がひらり。


【お題:届かぬ想い】

◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・柚原 愁 (ゆずはら しゅう) 高1

4/14/2024, 3:01:26 PM

#歌が繋いだ恋のはなし (NL)

Side:Shizuna Kida



もし本当に運命の女神様がいるのなら、10年間離れ離れになっていた私と凪くんが再会できたのは女神様が私達を導いてくださったからなのかもしれない…と、思いたい。


凪くんは世界にたった1つしかない秘密のラブソングで当時思春期真っ只中だった私の恋心をかっさらっていった、なんとも罪な男の子。

3ヶ月前に奇跡的に再会を果たしてから、私達は音信不通になっていた10年分の埋め合わせをするようにまた2人で過ごすようになった。
そして先月…ついに凪くんと付き合えることになって、現在に至る。


「静那ちゃん、おまたせ」

「凪くん!へへっ、全然待ってないよ。大丈夫」

「ほんと?じゃあ早速行こうか」

「うん!」


私の友達はSNS映えするオシャレなディナーとか、ちょっとお高めのプレゼントとかを彼氏に求めているのにといつもぼやいているけれど、私が凪くんに求めているのはむしろ…居心地の良さだ。

デートプランは派手じゃなくてもいい。プレゼントはそんなに頻繁にじゃなくてもいい。
凪くんが私と一緒にいてくれる幸せを噛みしめていたい。


だから運命の女神様、どうか私史上最高の恋を終わらせないでください。
大好きな彼のそばにずっと…いさせてください。



【お題:神様へ】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・天善 凪 (てんぜん なぎ) 24歳 シンガーソングライター
・木田 静那 (きだ しずな) 24歳 花屋さん

4/13/2024, 2:25:51 PM

#駆と棗 (BR)

Side:Natsume Isshiki



10歳の時、僕の世界から音が消えた。
あの日は今日のように雲ひとつない快晴だったけれど、朝目覚めるとひどく静かで、開いた窓から吹いてくる穏やかな春風もどこか冷たく感じたのを覚えている。

…この季節の快晴の日は、今でもその感覚を鮮明に思い出してしまう。


「…」


かつて僕は歌うことが好きだった。大好きな音楽を聴いて歌うことが僕の幸せな時間だったのに、生まれて初めて抱いた歌手になるという将来の夢は粉々に砕け散った。

ただ…そのショックで日に日に感情を失っていく僕の周りから友達が1人、また1人と離れていく中、2歳年下の幼馴染・駆だけは今も僕のそばにいてくれている。

実親の愛を知らずに育ち、歌えなくなった自分に価値はないだなんて思っていた僕に、彼は僕の両手では抱えきれないほどに大きな生きる希望をくれた。


『棗くん、お昼何食べたい?』

『今はオムライスの気分かも』

『じゃあ俺が作ってあげる!』

『駆って料理できたっけ?』

『失敬な!できるってば!』

『ごめんごめん』


駆は約8年ほどかけて僕のために少しずつ手話を覚えてくれて、現在は僕との会話はほぼそれだけで成立するようになった。

…でも、僕の耳が聞こえなくなったことで彼に迷惑をかけていることも事実だから、申し訳ない気持ちは消えていない。


『棗くん、まだ俺に申し訳ないって思ってるでしょ?』

『何で分かったの?』

『そりゃ分かるよ!だって俺が3歳の時から一緒にいるんだし』

『すごいな、幼馴染歴16年は伊達じゃないね』


上機嫌でオムライスを作り始める駆から窓の外の青空へと視線を移すと、桜の花弁が1枚部屋の中へ舞い込んできた。

…駆と一緒にいる時くらいは、苦手な春を好きでいようかな。

僕は駆の背中に視線を戻し、手話でこっそりと彼に「大好き」を伝えた。




【お題:快晴】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・水科 駆 (みずしな かける) 19歳 棗の幼馴染
・一色 棗 (いっしき なつめ) 21歳 10歳の時に突然耳が聞こえなくなった

4/11/2024, 2:00:38 PM

#悠と響 (BL)

Side:Haruka Miyamae




俺と響の関係は今は相棒以上恋人未満のような状態だと、俺は思っている。


「はーるーか、メシ食わねーの?早くしないと俺が全部食っちまうぞ〜」

「この玉子焼きも唐揚げも全部俺のだからダメ」

「ぶっは!何だよその謎の独占欲!」

「あ、それと響も俺の。だって俺の相棒だから」

「おいコラ、俺はついでみたいに言うな!」

「ごめんって、ついでじゃないから」


平日はお互いバイトや学校で忙しい分、休日はほぼ毎回2人で過ごす。友達にしては距離が近すぎるとも、よく言われる。
それでも1人でいるより、響と一緒にいるほうがずっと楽しい。


「響」

「ん?」

「ありがとな、いつも」

「あはは!何だ何だ〜?悠についにデレ期到来か?」

「俺は響にはいつもデレてます〜」

「それはダウト!」


そして響と一緒にいるときほど、時間はあっという間に過ぎていく。
何故楽しいときほど時間の流れが早く感じるのだろうか。

目の前で美味い美味いと呟きながらパスタを頬張っている響を見て、こいつのもっと幸せそうな顔が見たくなった。


この感情は今や言葉に出来ないほど、大きくなっている。




【お題:言葉にできない】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・宮前 悠 (みやまえ はるか) 攻め 高2
・久谷 響 (くたに ひびき) 受け 高2

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