月園キサ

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#柚原くんの一目惚れ (BL)

Side:Luki Ichinose



この街の桜の開花宣言を聞いてから1週間も経たないうちに、突然雨が降ってきた。何だか妙に優しい雨だ。


「これがいわゆる涙雨ってやつかぁ〜!ねぇねぇ瑠貴くん、傘一緒に入ってもいーい?」

「ん?おう、どーぞ」


今日、これから俺は隣にいる彼女…里緒に別れ話を切り出す計画を実行する。
里緒は俺と同じ中学校出身で、今年俺は地元の男子校に、彼女は隣町の女子校に入学した。
彼女の「好き」の圧に半ばゴリ押しされる形で付き合うことになって約半年が経つが、俺が彼女と別れたい理由は2つある。

1つ目はさっぱりした性格と見せかけて、実際はかなり粘着質だと最近判明したから。そして2つ目も最近知ったことだが…


「ねぇねぇっ、今通り過ぎたお兄さんイケメンじゃなかった!?彼女いるのかなぁ?」

「…ふーん…?」


…かなり惚れっぽくて移り気だからだ。
俺に好き好きアピールをしまくっていた半年前のアレは何だったんだ?と、正直いい気はしない。

とはいえ、里緒の本性に早く気付けずにずるずると付き合い続けていた俺も俺だ。
ということで、ここらで一区切りをつけようと思い立ち現在に至る。


「里緒」

「なぁに〜?」

「俺と別れて」

「…えっ?何で?え??」


だがしかしそう簡単には折れてくれないのが里緒なわけで。
これは作戦が少々長引きそうだ、と俺は小さくため息をついた。


「里緒のことを信用できなくなったから、別れてほしい」

「待って!?り、里緒の何がダメだったの?ねぇ!」

「…」


その時、俺は先週の入学式でたまたま同じ桜の木の写真を撮っていた同級生のことが頭に浮かんだ。
穏やかな桜吹雪の中、一瞬彼と目が合ったような気がしていた。

…こうなったら奥の手を使うしかない。


「たぶん俺らさ、それぞれ別の人を好きになってるんだよ。里緒も街中で見つけたイケメンの話しかしなくなったし」

「そ、そんなわけないってば!里緒が好きなのは瑠貴くんだけだよ…!」

「嘘つくなよ、いつまで本性隠し通せると思ってんの?だから信用できないんだよ」


俺は俺のできる精一杯の演技で、この付き合いに冷めきった自分を演じた。
そしてここからが第2フェーズ。俺を最低な男だとはっきりと認識してもらうために、里緒に俺への言い分をあるだけ全部吐かせていく。


「…そう言う瑠貴くんだって、里緒に好きって言ってくれたことそんなにないよね…?」

「言われてみれば…確かに」

「デートもいつも里緒の行きたいところを優先してくれてたけど、本当は決めるのめんどくさかっただけじゃないの…?」

「それもある」

「里緒が言わないと彼氏っぽいことしてくれなかったくせに、うまくいかなかったのを里緒だけのせいにしないでよ…!」

「…それは本当ごめん。受け身だったのは自覚してる」


このフェーズは少々心にダメージを負うが、それでいい。この半年間の決着をつけるためなら、俺はいくらでも悪い男になってやる覚悟だ。


「もういい!瑠貴くんなんかだいっきらい!!」

「それでいいよ、里緒」

「里緒ばっかり好きって伝えてたのバカみたい!分かったよ、別れてあげるっ!!」


あんなに穏やかだった雨も、少し雨脚が強まり始めた。
真新しいセーラー服をびしょびしょに濡らしながら走り去る里緒の背中を、俺は何も言わずに見送った。

…この調子だと、明日にはこの公園の桜の殆どは葉桜になっていることだろう。

里緒の姿が完全に見えなくなった後で俺も帰ろうとしたけれど、俺の視界の端に突然見慣れた人影が映った。


「え、柚原?そこで何してんの?」

「…い、市ノ瀬…?」


柚原は傘もささずに、公園の隅にあるベンチの上にうずくまっていた。
彼に何があったのかは分からないが、入学式の時とだいぶ様子が違うことだけは理解できた。


「市ノ瀬…さっき一緒にいたの彼女だろ?追いかけなくていいのかよ?」

「あ〜…えっと。さっきフッた」

「は?マジ? …くしゅんっ!!」


大きなくしゃみをする柚原に傘を差し出して、俺たちは失恋トークを繰り広げ始めた。
…柚原の好きな相手が実は俺だったと知るまで、あと10分。



【お題:桜散る】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・柚原 愁 (ゆずはら しゅう) (受けみたいな)攻め 高1
・市ノ瀬 瑠貴 (いちのせ るき) (攻めみたいな)受け 高1

・里緒 (りお) 瑠貴の元カノ

4/17/2024, 12:45:14 PM