#猫好き画家の花村さん (NL)
Side:Kyo Hanamura
「ねぇ花村君、これなら誰にも負けないって思えるものはある?」
小学生の時、先生にそう聞かれた記憶がある。でも、なんと答えたかは覚えていない。
私は外で泥まみれになって遊ぶよりかは、むしろ教室にこもって絵を描いているほうが好きな少年だったから、多分自信満々に「絵を描くこと!」なんて答えていたかもしれない。
それから20年ほど経った現在は、大好きな猫をモデルに絵を描いて暮らしている…わけだが。
「花村さーん!おはようございまーす!」
「おはよう…浅川さん。これからお散歩かい?」
「はいっ!」
「ふふっ、いってらっしゃい」
浅川沙帆さんは私のお隣さんで、ドールハウスのような外観の可愛い家に住んでいる。
いつも明るくて笑顔が素敵な、春風のようにあたたかい女性だ。
「…参ったな…」
猫への愛なら誰よりもずっと強いと自負している私にも、最近好きなものが増えたらしい。
「…ねぇそこのイケメンくん、私の絵のモデルになってくれるかい?」
「なぅーん?」
よくうちの庭に遊びに来る黒猫くんにひとりごとを聞いてもらいながら、今日も私は絵筆を握る。
この感情は創作の妨げにしかならない呪いだと思っていたのに、心地よく感じるのは…何故だ?
【お題:誰よりも、ずっと】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・花村 京 (はなむら きょう) 29歳 画家
・浅川 沙帆 (あさかわ さほ) 24歳 ドール服デザイナー
#佐橋と鷹宮 (BL)
Side:Hayato Takamiya
最近、親友の様子がおかしい。
そう感じたのは1週間前のことだ。
あいつは何かを言いかけてやめた。たったそれだけのことだけれど、オレはその理由が気になってしょうがない。
「佐橋〜」
「…」
「碧生〜」
「…」
「佐橋碧生〜!昼飯の時間だぞ〜っ!!」
「…あ、ごめん鷹宮。ちょっと考え事してた」
絶対嘘だ。オレにはこいつと10年つるんできた経験値があるから、オレは既に確信している。
無表情でいることが多い佐橋だけれど、オレには分かる。今の佐橋は何かオレに隠し事をしていると!
「佐橋〜、オレに何か言うことあるだろ?」
「…え、いきなり何の話だ?」
「ほら、この前オレに何か言いかけたじゃんか?」
「あぁ…あれは本当に何でもないって」
「誤魔化すな〜っ!」
「…」
佐橋は何故かさっきからオレの方をちっとも見ようとしない。心做しか…思い詰めているように見える気がする。
オレはその理由が知りたいのに、こいつはいつも隠し通そうとする。
それが何だか…もどかしくて、少し腹が立つ。
「何だよ〜、そんなにオレが信用できないってことか!?」
「…違う」
「じゃあ何で言わないんだよ〜!」
「…言いたいけど、言えないんだ」
「ほれ、お前の親友鷹宮颯人は今更お前が何言ったってバカにしたりしないぞ!ほら、言ってみ?」
オレの必死の説得の末、佐橋がようやくオレのほうを向いてくれた。
長い前髪の間からオレを静かに見つめる佐橋の表情には、まだ躊躇いが見える。
「鷹宮…」
「ん〜?」
「…本当に、僕のことをバカにしないって誓えるか?」
「誓う!」
男の誓いを交わしたその瞬間、無感情だった佐橋の表情が少し…和らいだような気がした。
どこか覚悟を決めたかのような…こんな表情の佐橋は初めて見た。
「…ずっと好きだった」
「なーに言ってんだよ、オレは今でもお前が大好きだっつーの!」
「…違う、そういう意味じゃなくて…」
「…ん?」
…ええええ嘘だろ〜!?
約10秒かけて佐橋の真意を理解したとき、オレは階段から転げ落ちそうになった。
「…悪い、やっぱりそういう反応になるよね。前言撤回する、忘れてほしい」
「いや待て待て待て!待てーい!! オレがまだ何も言ってないのに退却しようとすんな!!」
屋上へ逃げようとする佐橋を慌てて追いかけて、オレは何とか佐橋の腕を捕まえることに成功した。
「…あんなこと言ったばかりなのに、これからもずっと僕と一緒にいてくれる…のか?」
「当たり前だろーが!だからオレの前でくらいチキン発揮しなくていいんだぞ!」
「…そういうとこが好き…」
「!?」
佐橋の心の奥深くに眠っていた本音を聞き出した結果、オレたちは2人揃って次の授業に遅刻した。
案の定同じクラスの奴らには大笑いされてしまったけれど、後悔はしていない。
【お題:これからも、ずっと】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・鷹宮 颯人 (たかみや はやと) 攻め 高1
・佐橋 碧生 (さはし あおい) 受け 高1
#猫好き画家の花村さん (NL)
Side:Saho Asakawa
私の住む家のすぐ隣には、ところどころツタに覆われた洋館がある。そこに最近、ミステリアスな画家のお兄さんが引っ越してきた。
彼は大好きな猫の絵だけでよく個展を開いていて、近所では「猫好き画家の花村さん」として有名だ。
「おはようございます、花村さ…おっ?」
私がいつもどおり散歩途中に挨拶をしようとした時、花村さんは庭に遊びに来た野良猫をモデルにうっとりとした表情で絵を描いていた。
「ふふっ、いいね…君の目を見つめていると創作意欲が溢れてくるよ、キレイだね…いいよ…そのまま動かないでいて…」
よかった、花村さんは今日も幸せそうだ。
私は彼の創作の邪魔をしないように通り過ぎようと思ったけれど、結局彼が私の存在に気づくまで眺めてしまっていた。
「あ、おはよう…浅川さん。ごめんね、君を無視したわけじゃなかったんだけど、どうしてもこの瞬間を描いておきたくてね…」
「いえいえ、いいんですよ!大好きなものに夢中になれば誰だってそうなりますって!」
花村さんは絵筆を置いて、制作途中の絵を見せてくれた。
真っ白なキャンパスには青い瞳の白猫が優雅に日光浴をしている様子が描かれていた。
「わぁ〜…!」
「これは…私の傑作のひとつになると思うんだ。完成したら、君に最初に見せてもいいかな?」
「もちろんですっ!楽しみ〜!!」
それから私は上機嫌で散歩に出かけた。
花村さんの渾身の最新作を一番に見られる日を楽しみに。
【お題:君の目を見つめると】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・花村 京 (はなむら きょう) 29歳 画家
・浅川 沙帆 (あさかわ さほ) 24歳 ドール服デザイナー
#悠と響 (BL)
Side:Hibiki Kutani
「なぁ相棒、そういえば俺たちって互いのことを名前で呼んだことないよな?」
「そうだな…確かにないような気がする」
「けどさ、今更名前で呼ぶって照れくさくね?」
「そうか?」
星が綺麗な日の夜、俺は相棒と2人で遊んだ帰り道で何となく、本当に何となくそんな話をしていた。
自分から話題を振っておいてなんだが、だんだん胸のあたりがむず痒くなってきている。
「響」
「うぉっ!?何だよ突然!」
「…俺のことは名前で呼ばないのか?」
「あんたなぁ…!俺今照れくさいって言ったばっかじゃねーか!」
「何で?」
…本当に何でだろうな?自分でもよく分からない。
ただ、何故か照れくさく感じている。今更感があるからだろうか?
「呼んでみろよ、悠って」
「…はる…か?」
「ちょっと、何で疑問形なわけ?」
「うるせー!!」
星空の下で何恋人みたいなやり取りをしてるんだ俺たちは。
…でも、名前で呼ぶのも案外悪くはないかもしれない。なんて、悠本人にはあえて言ってはやらないが。
【お題:星空の下で】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・宮前 悠 (みやまえ はるか) 攻め 高2
・久谷 響 (くたに ひびき) 受け 高2
#佐橋と鷹宮 (BL)
Side:Aoi Sahashi
「なぁなぁ、もしいつかオレに彼女ができたらどうする?」
「もしそうなったら、お前を裏切り者として呪ってやろうかな」
「え〜、何じゃそりゃ〜!」
「冗談だってば」
放課後、僕はいつものように親友と軽口を叩き合っていた。
僕らは最初は恋愛に興味は無い者同士で意気投合していたのだけれど、最近の彼は彼女欲しい側への寝返りを匂わせ始めた。
そして僕の気持ちも…変わり始めている。
「ねぇ」
「ん?」
恋愛対象がどちらなのか、もしくはどれでもないのかは今の時代何もおかしいことではない。
そうだと分かっていても、本当の気持ちを伝えるのは怖いものだ。最悪の場合、親友を失うことになるかもしれないから。
「…ごめん、やっぱり何でもない」
「何だよ〜、もったいぶらずに教えろって〜!」
嗚呼、いっそ言ってしまえたらいいのに。それでも当たって砕けろ精神になれない僕は臆病者だろうか。
そして明日も明後日も、きっと僕は彼のいい''親友''のままでいる。
…今はまだ、それでいいのかもしれない。
【お題:それでいい】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・鷹宮 颯人 (たかみや はやと) 攻め 高1
・佐橋 碧生 (さはし あおい) 受け 高1