ある日、1人の男の子に出会った。
彼は私と同い年だけど学校には行けてないらしい。
理由を聞いたけど答えてはくれなかった。
夏休み、私は祖父の家に来ていた。
退屈すぎて外に遊びに出ていたところ、彼を見つけた。
それからほとんど毎日一緒に遊んだ。
川にも行ったし、山にも登った。
あと2日で帰らないといけない。
それが嫌だった。
私は彼が好きだった。
一緒にいて本当に楽しかった。
笑ってくれるのが嬉しかった。
次の日、彼は来なかった。
その次の日も来なかった。
私が東京に帰る日になった。
車に荷物を詰め込み乗り込もうとした時、ふいに風が吹
いて私の帽子を取っていった。
はっ、、!っとして空を見上げると。
彼が悪戯そうに笑って帽子を持っているのが見えた。
私は神様と一緒に遊んでいたらしい。
でもそれはお母さんにもおばあちゃんたちにも言わない
し、言えないこと。
これは2人だけの秘密だから。
『何気ない振りをするけれど』
毎週土曜日、あなたは決まってどこかへ行ってしまう。
帰ってくるのは次の日の昼。
何をしているのか聞いたことはない。
結婚して6年目。
私は子供が出来ない体質だった。
大きな病院に行ってお医者様に診てもらって。
何度も何度も検査をしてわかった事だった。
結果がわかって夫に「私と離婚したい?」と聞いた。
彼は笑って言った。
「子供が出来ないのは残念だけど、それだけでは僕たちの
幸せは崩れない。子供が出来ないことだけでは君と別れ
る理由なんてないさ。」
そう言って抱きしめてくれた彼を私は愛していた。
毎週土曜日にどこかへ行くようになったのはそんな出来
事から2年後。
お互いが休みの日は決まって映画を見ていた。
どこかへ出かける時もあったけど、2人でゆっくりと過ご
すいつも通りの日だった。
お互いの仕事の近況を話し合ったり、ご近所の高橋さん
がペットを飼い始めたらしい、などと話したりした。
ふいに彼が少し出てきてもいいか、と私に聞いた。
「どうしたの?今日は仕事ないんでしょ?」
私がそう聞いても彼は何も答えない。
ただ、少し外の空気が吸いたいと言ってそのまま出てし
まった。
その日、初めて彼は帰ってこなかった。
私は2時を過ぎたため布団に入って寝てしまったが、
その間にも彼が隣で寝ていた跡なんかない。
『浮気』
その二文字が頭に浮かんだ。
ただ、急に外に出てもいいかと聞いたのに浮気というの
も疑問が残る。
誰かと約束をしていたのかとも考えたが彼が連絡を取る
のは基本私と両親だけだ。
会社の人間との付き合いは悪くは無いが、良いともいえ
ないと彼が話していたのを思い出す。
不器用な彼だからサプライズをしたいのか。
それなら私は黙って待っていた方がいいのだろうか。
ただ、記念日が近いわけでも誕生日が近い訳でもない。
私はただ困惑していた。
そして今日。
とうとう彼を問い詰めた。
「あなたは毎週土曜日にどこへ行っているの?」
彼は驚いた様子だった。
私に知られていることはわかっているだろう。
わざわざ毎回私に許可を求めるぐらいだから。
なのに驚いているのは私が聞いてきたからだろうか。
それとも、"いないはずの私が話しかけたからだろうか"
彼が毎週土曜日に行っているのは語り手のお墓でした。
奥さんは自分が妊娠出来ないとわかった時に自殺をして
しまいました。
自殺の理由は夫がずっと子供を欲しがっていること。
自分ではその役目が果たせない、だから新しい人と幸せ
ななって欲しい。
遺書にはそう書かれていた。
だが夫である彼は再婚せず、2人の名前が掘られた結婚指
輪を片時も外さない。
土曜日はいつも彼女のお墓へ行き、近くにある実家で泊
まり妻と良くしていたように義理の両親と近況の話をし
たり映画を見たりする。
義理の両親も
「あの子が遺書に書いたように君の幸せを求めていいん
だぞ?」と言ったが、彼の決心は硬かった。
私達の心は絆で繋がってる。
この夏、起きたことは本来ならありえないこと。
私たちはこんなことが怒らなければ、会うことなんてな
かったかもしれない。
いや、なかったと思う。
絆は強い。
深い、深い所で繋がってる。
私はこの絆を大切に生きていきたい。
私は行きたい遠くの街へ
私のことなんて誰も知らないような街へ
私は死にたい
私を殺して欲しい
私は行きたい、
『地獄』という名の遠くにある街ね
1回行ったら二度とここへは帰っては来られない
そんな街へ
私は行きたい。
同情なんていらない。
私は一人でも生きていける。
ずっとそうしてきた。
お母さんが病気で死んでからお父さんは家に帰ってこな
くなった。
お母さんの保険金を全部置いて言ってくれたからまだ良
かった。
それをすこしずつ使って生きてきた。
だってそれが私の普通だから。
みんなの中の普通はお母さんとお父さんがいて、家に帰
ったらご飯があって、洗濯もしてあって、お風呂が湧い
てるそんな家?
私は違う。
家に帰ったらまず掃除。
綺麗になったら洗濯を回して、その次はご飯を作る。
時間があったら沢山作って作り置き。
時間が無い日は食べない時もある。
お金はほとんど自分用には使ってない。
家はお父さんが売って小さい家になったから私だけって
いうのはバレないし、お金が増えたことが嬉しかった。
ご飯を買って、家賃とかを入れたりしたら今月使えるの
なんて少ない。
もうずっとテレビなんて見てない。
学校に行ったらみんなが昨日あったテレビの話、スマホ
での話、色々してるけど私は勉強してるだけ。
進学希望じゃないけど、あんなの話してるよりよっぽど
有意義な時間をすごしてると思う。
私は今、幸せ。
寂しくないわけじゃないけど、辛くは無い。
だってみんないずれかは一人暮らしをするのに。
その時間が早まっただけ。
同情なんて必要ないでしょ。
私の''普通''だもの。