にやー、にやー
子猫が鳴ゐている、
腹が空いたのかと餌をやる
足に擦り寄り
餌に見向きもせず頬擦りをする。
とても人懐つこい猫だ、
「うちにも似たのがいたんだ、お前さんはあいつの子供かなにかかね」
誰にも聞こえぬやうな小声で呟く、
(違うさ、)
どこからか声が聞こえた気がした
きっと隣の家の悪餓鬼が悪戯をしたのだ。
子猫はまん丸の瞳で心を覗くかのやうに
じー、と見つめてゐる
幸い家にはまだ餌や寝床がある、
うちにいた奴のものだが捨てるよか良いだろふ
まあ、これも何かの縁だ
「もし暇ならうちへ来るかい?」
まってましたと言わんばかりの飛び付に
腰を抜かせてしまった、
(ただいま、)
また、声が聞こえた
きっとあいつがお天道様の膝元でこちらを見ているのだ、
私は寂しくなどなゐ
今日からは、独りじやないのだから。
買い物の帰り道、
商店街をふらつと通る
トンカツ、まんじゆう、団子、
肉まん、からあげ、餃子、
パン、栗、魚、
「ああ、ここは魅力が多すぎる」
商店街を出る頃には袋の数は増え、
秋風と共に
家への帰り道をたどる。
けう、僕の人生の中で
一番と言える友がくる。
嬉しい気持ちとは裏腹
外は薄暗く陰惨な雰囲気である、
しかし、そんなことに構わず
急ぎ身を整え、部屋を片す。
準備が終わるまでは
まだ来るなよと念じていたが、
準備が終わってしまえば
早く来い、早く来いと念じてしまふ。
友との時間は一瞬だ、
酒を飲み女房の愚痴を吐露する
多少の賭け事で場を盛り上げ、
少々盛り上がりすぎることもあるが
それはそれだ。
月にひとつか二つ催されるこの宴は
いつも同じように始まり、
同じよふに終わる。
しかし、今日は違う
今までの秘め事をゐう、
そう決めているのだ
いつもなら解散するとこを引き止められ
友は不思議そうな顔をする、
「お前の事を友だと思つたことは無かったよ。」
戸惑う友を無理矢理戸の外へ押しやる。
「また会おう。」
そう小さく呟いた、
ああ、最後の最後まで
心を晒すことは出来なかった。
けう、僕はひとり
暗い部屋で眠りについた。
山奥へ行き木に輪を吊るす、
首をかけ全身の力をぬく、
(バキツ)
わざわざ細い枝にかけ
死ぬかもしれないスリルを味わふ。
台所から果物ナイフをとり、
お風呂場へ行く、
(スー)
薄く薄く手首に紅をえがき
死ぬかもしれないスリルを味わふ。
2階の自室、
窓から身を乗り出す、
(ガサツ)
庭の低木に狙いを定め落ち
死ぬかもしれないスリルを味わふ。
けうも、明日も、明後日も、
俺は意気地無しの
臆病者だ。
使えぬからともがれたモノは
部屋に飾つてあります。
ソレが視界に入るたび、
とても、とても酷く痛みます。
忘れることは無ゐとしても、
忘れぬために
ソウしておきます。
必ず、
お返しします。