特別な夜
足跡で汚れた道は雨で綺麗に洗い流され
住宅街は人っ子ひとり歩いていない
自宅までの道のりを歩くこの数分間は
貸し切りの時間だ
蛍光灯の光
家からもれる光
信号機の点滅が
アスファルトに反射し
ネオンの光のように私を包み出迎える
注文は何にしようか
道端でメニューの光るボタンに指を這わせ悩む
たまにはちょっと高いものを頼もうか
ガコン
普段なら人目を気にして
はしたないとためらってしまうけど
今日は貸し切りだから
そう自分に言い聞かせて
盛大に甘やかしてしまおう
羞恥心が吹っ切れたと感じられた頃には
それは既に喉を通り空きっ腹を満たしていた
海の底
海の底は寒い
日の光が届かなくて辺りが冷たいからだ
だが暗いお陰でプライバシーは守られている
静かだから個が個として生きられる
適応できた連中はきっと幸せなんだろうと
適応できなかった連中は想像する
今日も暖かで監視された陸上で
歯を食い縛り波を眺めるしかないのか?
命がけでもう一度
一歩でも進めたならば
変われるのか?
君に会いたくて
何度も君は
私のもとにやって来て
誘惑し
踊り
微笑みを絶やさなかった
きっと人前で踊るのが好きなんだろう
だからよく見かけるのだろう
しかし君の姿は薄くなり、
目を凝らさなければ見えない程
弱々しくなった
私はその姿を見た時
君がずっと私に
助けを求め続けていたのだと知った
踊ることで見つけてもらい
手を差しのべて欲しかったのだと
私は視野が狭かった
事象の原因を推し量ることを
本能で拒んでしまった
後悔の先に残ったのは、
私の影だけだった
不器用だが真っ直ぐに生きた君に
どうか幸運を
変わらないものはない
力の差は歴然で流されると分かっていても
馬鹿なことをやっていると知っていても
順応した方が生きやすいとしても
波に逆らうことがある
それは最期まで自分に正直でいたいという
ワガママを突き通す為の抵抗だ
決まった未来を押し付けられ
見えるもの全てが変わり果てたとしても
この意思だけは覆させない
クリスマスの過ごし方
私に勇気をください
震える手をどうにか操って
言葉をポツリポツリと紡いでいく
つたないけれど、素直な想いを
綺麗じゃないけど、ストレートな告白を
思いつく限りの言葉を使い果たした後
深呼吸して、もう一度祈った
私に勇気をください
送信ボタンに指を持っていき
そっと触れた