あれから何ヶ月が過ぎただろうか
僕は家の事情で
孤児院での生活を余儀なくして居る
姉と一緒に孤児院に来た
姉は引き取り手が最近見つかり
引っ越しの準備をして居るところだそうだ
僕は唯一の肉親の姉が居なくなる…と言うか
僕から離れて別々で暮らして行くことに
不安を抱いて居る
施設の職員は
どうせなら姉弟2人とも一緒に引き取ってもらえれば
良かったのにね 気の毒に
と
他人事だ
僕は姉に手紙を書いている
生まれて初めて手紙を書く
「姉さん 僕の事を忘れないでください
僕は姉さんのたった1人の家族だよ ずっと」
そう書いた
姉は三つ上で
物静かな性格だ
これまで2人で手を取り合って
いろんな問題を解決してきた
例えば
おやつを分け合ったり
いじめっ子から姉を守ったり
勉強を教えてもらったり…
これから僕1人になって
この孤児院でやっていく自信がない
寂しくなるけど
手紙には書かなかった
恥ずかしいから
僕はなんとか
頑張ろうと思う
新しい友達を作ったり
勉強を頑張ろう
病気にならないように
身体も鍛えなくちゃ
姉にばかり
甘えていられない
僕も
これからなんだ
ぼくは今 小学3年生だ
大人たちとはちがい
まだたくさんの可能性があるって
お父さんが言っていた
だから大人たちより
ぼくのほうが賢くなれるのかもしれないし
なんにでもなれるのかもしれないから
ぼくは大人たちよりえらいと思う
でも
毎日お父さんは新聞をすみからすみまで読んでいて
すごいなと思った
多分ぼくも大きくなったらお父さんみたいに
新聞をたくさん読めるようになれると思うけど
今からでも
がんばって読めるところは読みなさいと言われて
新聞をぼくも読もうと思うけど
どこを読んだら良いのかわからないぐらい
たくさん字が書いてある
漢字もむずかしい
とくにラジオ番組表とテレビ番組表とマンガを読む
むずかしいところはお母さんに聞く
お父さんに聞きなさいと
時々言われるけど
お父さんは忙しいからあんまり聞けない
お母さんも大人だから
ぼくよりいろいろ知っていて
当然だと思っていたけど
お父さんのほうがもっと知ってることが多いって
お母さんは言っていた
ぼくはまだ子供と思われるのが実は少しいやだ
子供だけど
大人の人だっていろいろ居るから
子供だって賢いと思われても良いと思う
ぼくも賢いと思われたい
とてもじゃないけど
嫌だ 無理だよ
そう言って
電話を切った
僕はこれまでも
量子力学についての研究を重ねて居るが
研究チームの代表として
論文を書いて欲しいと
同僚の知り合いから頼まれた
何度かそういう誘いは断って居るので
もういい加減うんざりしてきたが
友人が
「会ってくれ 急で悪いが論文を私が書く代わりに
君に会わせたい人がいるんだ」
と 変なことを言い出した
連日の研究やディスカッションの合間を縫って
仕方がないから友人に会う事にした
ー夜 結構賑わうレストランに来た
友人が僕を見つけて小さく頷くのが見えた
隣に若い女性が座って居る
僕は席を立って会釈をする友人と女性に
挨拶をすると友人の真向かいに座って
「待ったかい?遅くなったね
ごめんよ お腹が空いてしまったよな」
と 話を切り出した
友人は僕にメニューを渡し
「いや そんなに待ちはしなかったんだが
こちらの女性をご紹介させてもらってもいいかね?」
と女性を見遣る
僕は改めて女性を見た
女性は友人の視線に気づくと
「初めまして その…」と言ったきり
言葉に困って居る様子だった
ギャルソンがこちらに来た
「いらっしゃいませ」
友人がギャルソンに目配せをすると
「…では 後ほど伺いますので」と
僕たちの席から離れてしまった
「おいおい 水だけ飲んで居る気かい?」
友人に訊ねると
「まあ…彼女がお腹を空かせて居ないんだ
すまないが」と言う
僕は
「とりあえず 話を聞きましょうか」と
女性に視線を戻した
女性はおずおずと
俯き加減で しかし 僕や友人を交互に見ると
心を決めた様子で話し出した
「あの…初めまして 私は生き別れた兄を
これまでずっと母と共に 探しておりました
あ 写真はここに…」
彼女が差し出す写真を見せてもらうと小さな頃の僕と
見知らぬ女性に抱かれた赤ん坊が写っていた
「え!?僕は母が死んだと言われて育ったんだが…」
僕は幼少の頃
父親に連れられ家を出て
父と共に父の実家で父の母の祖母と
父の姉である叔母と
母は病気で亡くなったものの
その事以外では
何不自由なく育てられたことを覚えて居る
しかし妹の話では
母は生きていたが父との関係がギクシャクし出して
その理由は父の父親である祖父による
僕らの母へのいじめが理由で
どう暮らすことが最善かを話し合った挙句
別れたと言うことらしかった
妹が涙をハンカチで拭う
それを見た友人が
「探偵さんがね ある日僕の元に来て君のことについて尋ねてきたものだからびっくりしたよ」と
ギャルソンを呼ぶ
「メニューはお決まりでしょうか」
友人が「今夜は僕が奢るよ 良い夜だ」
と言った
しまった
彼女からのLINEを既読スルーして
ほったらかしだ
彼女からの毎日の熱烈なLINEに多少たじろいで居る
私は昨日の彼女からのおやすみLINEを見たきり
ほったらかしのまま寝てしまい
今から仕事に出るところだ
寝て居る間
数時間にわたって彼女から鬼電がかかって居た
付き合って2ヶ月目に入るが
ここまで酷いとは思わなかった
朝からまた着信
彼女だ
…もう知らん
私用のスマホは家に置いて
仕事に出た
ー仕事から帰宅すると
テレビをつけて風呂に入った
あー …女って面倒だなー
風呂で独り言を愚痴ると
部屋に置いてあったスマホからLINEの通知音が鳴った
風呂から出て
パスタ料理を作る
パスタを茹でて居るうちに
フライパンで
レモン果汁 生クリーム ほうれん草 チーズ 鶏肉の
パスタソースを作る
LINEの通知音
スルーしてパスタを盛り付けると
塩胡椒を振って
テレビを見ながらパスタを食べる
隠し味は醤油だ
なかなか美味しかった
ほったらかしのスマホを手に取ると
LINEを確認した
あれ?
全て送信取り消しになって居て読めない
少しすまない気持ちが湧いて来た
ごめん 忙しくて疲れてたんだ
と彼女にLINEする
既読がついた
彼女から一件のLINEが入る
わたしもパスタ食べたい
ーは?
ふと窓に気配を感じ
恐々…窓に目をやると
彼女が窓に張り付くようにして
こちらを見て居た
夜 昼間の疲れがどっと押し寄せ
明日の荷物の支度だけすると
倒れるようにして眠りについた
目覚ましのアラームが鳴る
夜が溶けるように朝になった
目を閉じたままアラームのスイッチを切ると
再び寝てしまった…
ーあ、やばい と
目を覚ました
すると
時計が午後3時
15:00を指して居る
嘘…
絶句するより他にない
会社に電話をかける
「すみません…あ はい ええ 寝て居て…本当に
ごめんなさい…体調は…はい なんとも…はい…
今からでも出勤が出来ればしてと
言われて着替えようと起きると
うわー!マジ⁉︎
服のまま寝てしまって居たことに気付いた
お風呂入っときゃ良かった…
におうかな…どうしよ
髪を束ねると
顔を洗って
服を着替えて
荷物を持ち
出勤した
今日は地獄…今日は…最悪…
ブツブツと呟きながら
デスクに到着
私は今日のタスクをほぼ余らせたまま
仕事を終えることが嫌で
上司にお願いして
少し残業をさせてもらって
退勤した
あっという間に
また今日が終わってしまった
ほぼ寝てたよ 今日…
悪夢を見るように
急いで日々を過ごす
その中で
昔
読んだ
児童図書を思い出した
モモ
ミヒャエルエンデ作
時間の概念が
昔と今とでどれほど違うのだろう
私は明日の支度をして
お風呂に入った
今日も疲れたな…
ビール飲みたいけど
明日もあるし
ノンアルビール買っといて良かった…
今日も
お疲れ様でした