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とてもじゃないけど
嫌だ 無理だよ

そう言って
電話を切った

僕はこれまでも
量子力学についての研究を重ねて居るが
研究チームの代表として
論文を書いて欲しいと
同僚の知り合いから頼まれた

何度かそういう誘いは断って居るので
もういい加減うんざりしてきたが

友人が

「会ってくれ 急で悪いが論文を私が書く代わりに
君に会わせたい人がいるんだ」

と 変なことを言い出した

連日の研究やディスカッションの合間を縫って
仕方がないから友人に会う事にした

ー夜 結構賑わうレストランに来た

友人が僕を見つけて小さく頷くのが見えた

隣に若い女性が座って居る

僕は席を立って会釈をする友人と女性に
挨拶をすると友人の真向かいに座って

「待ったかい?遅くなったね
ごめんよ お腹が空いてしまったよな」

と 話を切り出した

友人は僕にメニューを渡し

「いや そんなに待ちはしなかったんだが
こちらの女性をご紹介させてもらってもいいかね?」

と女性を見遣る

僕は改めて女性を見た

女性は友人の視線に気づくと

「初めまして その…」と言ったきり

言葉に困って居る様子だった

ギャルソンがこちらに来た

「いらっしゃいませ」

友人がギャルソンに目配せをすると

「…では 後ほど伺いますので」と

僕たちの席から離れてしまった

「おいおい 水だけ飲んで居る気かい?」

友人に訊ねると

「まあ…彼女がお腹を空かせて居ないんだ 
すまないが」と言う

僕は
「とりあえず 話を聞きましょうか」と
女性に視線を戻した

女性はおずおずと
俯き加減で しかし 僕や友人を交互に見ると

心を決めた様子で話し出した

「あの…初めまして 私は生き別れた兄を
これまでずっと母と共に 探しておりました
あ 写真はここに…」

彼女が差し出す写真を見せてもらうと小さな頃の僕と
見知らぬ女性に抱かれた赤ん坊が写っていた

「え!?僕は母が死んだと言われて育ったんだが…」

僕は幼少の頃
父親に連れられ家を出て
父と共に父の実家で父の母の祖母と
父の姉である叔母と

母は病気で亡くなったものの
その事以外では
何不自由なく育てられたことを覚えて居る

しかし妹の話では
母は生きていたが父との関係がギクシャクし出して
その理由は父の父親である祖父による
僕らの母へのいじめが理由で
どう暮らすことが最善かを話し合った挙句

別れたと言うことらしかった

妹が涙をハンカチで拭う

それを見た友人が
「探偵さんがね ある日僕の元に来て君のことについて尋ねてきたものだからびっくりしたよ」と

ギャルソンを呼ぶ

「メニューはお決まりでしょうか」

友人が「今夜は僕が奢るよ 良い夜だ」
と言った


7/12/2024, 11:09:19 AM