［台風が過ぎ去って］


家と学校しか世界を持たない子供の頃は

映画やアニメの影響もあったのか

台風のもたらす非日常に

どこかワクワクしてた


轟音

停電

振動

落雷

一晩で変わる風景


自身の安全を疑う事もなく

いつもと違う何かが始まるかも知れない

別世界に入り込むような

そんな予感にソワソワした


周囲の大人達に守られ

何かあれば親が解決してくれ

常に安全地帯から外を眺め

危機や恐怖に触れる事も無かったからだろう


今にして思うと

それこそ別世界に生きてた頃


安全圏の外まで広がった世界で

台風が過ぎ去った今

そんな幼い妄想を

ふと思い出した


思えば

妄想叶って

別世界に来たのかもしれない

【ひとりきり】


今となっては

誰も信じてくれないけど

人生の前半はずっと痩せてて

健康診断の度に

痩せすぎです

と書かれていた


いつかの健康診断で

体脂肪率？を測る体重計が用意された事がある

体重計に乗り

付属のハンドルを引っ張り上げると

表示されたのは

0error

手を拭いたりしながら

測り直すも同じ表示

普段の食生活を聞かれるが

それは食べ過ぎとの事


担当の先生は

きっとあなたは入ったエネルギーを

全部使ってしまう体質だから

痩せすぎだけど

あなたにはコレがベストな体重だと思う

太りたくても太れないので

健康診断の度に痩せすぎとは言われるだろうけど

大丈夫と話してくれた


あれか数十年

俺は自らの体質を克服し

最近の健康診断の結果には

メタボの文字か刻まれるようになった

人は変われるのだ


色々と不都合も出て来た

何かの間違いで今は大きいが

元々は痩せ体質だし

食べる量は何ら変わってないのだ

そのうち食も細くなるだろうと


ふとりきり

【Red,Green,Blue】


色々と欲張る癖がある

カバンはいつもパンパン

それを見かねて

後輩たちがプレゼントしてくれたカバンが

前より大きくなったのをいい事に

さらに中身を充実させて

またしてもパンパンだ


おかげである程度の事には対応出来る


そんな癖があるものだから

身の回りは乱雑な事が多い


無駄も多いが

ここ一番で活躍する事もある

つい最近も

これから人前に向かう後輩のピンチに

ひみつ道具が役に立った

まぁ

白シャツにこぼした

コーヒーの染みを取っただけなんだけど


ごちゃ混ぜの道具達は

絵の具と違って

混ぜても黒くはならない


個性派揃いの同僚達

少々混ぜるな危険も見受けられるが

濁りはしない

各々違う強みがある


赤、緑、青

絵の具を混ぜると黒くなってくけど

光だと白くなるらしい


よく出来た話だと感じる

【フィルター】


フィルター越し

なんて言うと

なんだかボヤけた印象


だけど

不純物を取り除くと言えば

一気に逆の印象


分かり得ぬ事を

分かる為には

必要な事かも知れない


相容れぬものから目を逸らすのではなく

恐れる訳でもなく

あくまで知りうる為に


行け

子供フィルター

機嫌悪そうなママの元へ

【仲間になれなくて】


そ～ゆ～時は気を使わせたくなくて

だいたい

俺大丈夫！俺楽しめてる！

って顔して微笑んでる


もちろん

輪に入ってなくても平気で

微笑む必要もないって時もある

それが出来る空間は心地良い


とある会合

各支店の社員が一堂に会す

年に1回のイベント

はじめましての人も多いが

お久しぶりの顔も多い

お互い顔は分かるってくらいの人も


会合が終わるとそのまま親睦会になる

なかなか顔を合わせる機会がない旧友と再開したり

電話だけでやり取りした相手と対面したり

なんだかんだと話題に事欠かない

ある程度時間が経つと

思い思いに席を離れ各所で盛り上がる


そんな中

タバコを吸いに中座し

喫煙所へ向かうとそこにも懐かしい顔ぶれ

ひとしきり思い出話に花を咲かせた後

もとの席に戻ると

テーブルには誰も居ない

みんなバラけたようだ


ちょうど喉が渇いてたのでドリンクを頼みつつ

帰りの電車を調べていると

通りかかった後輩が

ちょこんと横に座り話しかけてきた

この後輩とは今同じ支店で働いてる

どこか掴みどころのない天然娘

時折独り言のように発言したり

なかなか面白い角度で会話に入ったり

天気の話をしててもラーメンの話をしたり

きっと思った事がそのまま口から出るタイプだ


そんな後輩と

届いたドリンクを飲みながら話してると

また人が戻ってきたり

やって来たり

人が入れ替わっていく

いつの間にか

その後輩も離れた席で話してる


楽しい時間は過ぎるのが早く

お開きの時間がやって来た


次行こうと言い出した

同世代の懐かしい顔ぶれ達と

二次会に行く事になった


二次会もやはり楽しい

当時の話から近況報告

仕事の事も

仕事以外の事も

話は尽きない


ふと時間を確認して

また帰りの電車を調べる

みんな別の方向に帰るから

俺は何時何分

俺達は何時何分

と各々調べながら帰る時間に目処をつける


もしかして...

自分がその心境に無かったし

そんな感じでも無かったから気づかなかったけど

さっきあの後輩は

一人で座ってる俺の姿を見て

やって来たのではなかろ～か

だんだんそんな気がしてきた

恐らく間違いない

なるほど

なにも考えてないようで

気遣いを気付かせない配慮

後になって気付くのも先輩として如何かとは思うが

前に出したキャラが強すぎて

気付く者は少ないと思う


凄いなアイツ


きっと本人は認めないだろうし

わざわざ言うのも無粋な気がするから

信頼のおける他の人間達に言いふらかしておこう