隣の男に目を向ける。
その男は何が面白いのかケラケラと目にうっすらと涙を浮かべて笑っていた。その涙をはらう際に揺れる金髪は酷く美しく、思わず見惚れてしまう。
そんな俺を笑いを収めないうちに見て「よかったぁ」と急に話しだした。
「は?急に笑ったかと思えばよかったってなんだよ」
ここに呼んだのはコイツなのに来た瞬間から吹き出し、意味のわからないことを言うことに俺の機嫌は最底辺にいた。少しでも見惚れた自分が恥ずかしい。
目線を逸らして不機嫌です、と言っているような顔をつくる。そんな俺に機嫌を悪くすることなく、男は質問に答えた。
「あは、だってさ。だってさぁ。こんな時でも呼んだらすぐに来てくれて、んで当たり前みたいにいつも通りの話をしてくれたからさ。いつも通りの態度をとってくれたからさぁ。」
嬉しげな声色に逸らした視線をもう一度向ける。そこには満面の笑みで、でも少し泣きそうな顔で言葉を紡ぐ親友がいた。
「なんか、ほんと。良かったなぁって、そう、思ってさ。」
堪えきれなかったのかボロボロと涙を流してそう言った。
そんな親友のおでこにデコピンをして「ほんとバカ」と言ってやった。
どうしてという顔をしているのを横目に俺も思いを告げる。
「生まれた時から隣に居たんだぜ。そんな大切な存在なのに、すぐ駆けつけないとか思われてたの?
それってすっげームカつく!」
ポカンとした顔でごめんと小さく呟いたところで顔を緩めて問いかけた。
「それとも、お前にとって俺ってその程度?」
「そんなわけない!!」
先程の情けない顔が嘘のように俺の肩を掴んで力強く否定する親友に、俺は満足気に頷いて肩を掴んだ手に自分の手を添えた。
「そうだよな。で、泣き止んだか?世界の終わりを泣き顔で迎えるなんて勿体ないからな。」
空は夜なのに異常なほど赤色に染まっていて明るかった。
今日で世界は終わるのだ。
「うん。僕も、世界が終わるなら君と笑顔で終わりたい」
まるで恋人かのような会話だけど、俺たちはそんなんじゃない。そんなものでは表せないほどの関係。
俺らはきっと元々1つの魂から生まれたんだ。それぐらい一緒に居たし、隣に居ないとおかしいと思うくらいだった。
「へへ、熱烈な愛の告白みたいだな」
「僕はそのつもりだったけど?お子ちゃまな君には伝わらなかったかなぁ」
「あ?なんだよ喧嘩したいならそう言えばいいってのに」
「あは、そんなんじゃないって」
他愛のない話を続けよう。
この世界が終わるまで。
ずっとずっと話していよう。
笑顔でずっと。
「ずっと隣で。」
こんな時、私はどうしたらいいのか分からない。
周りは騒々しく、所々で叫び声と呻き声で聞こえる。轟々と燃える炎はもうそこまで迫ってきていて、肌がチリチリと焼ける匂いがした。
あーあ。貴方に褒めてもらった白い肌なのに。
酸素不足で回らない頭でくだらないことを思った。
思えばいつだってそうだった。難しいこととか、辛いこととかの前で私は考えることを辞めるくせがあった。辛くて怖いのを考えることで実感するのが何よりも苦しかったから。
そんな弱虫な私の手を引いて、辛いも、怖いも、ぜーんぶ解決してくれたのが貴方だったね。
ねぇ、そうでしょ。
もうほぼ感覚がない手を貴方の頬にそえる。
「なんで私を助けてくれてたの?」
いつだって喧嘩ばかりだったのに、いざと言う時は助けてくれたね。
「貴方にとって私はなに?」
怖くて、腐れ縁だと無理やり自分の中で納得させて聞いてなかったけど、本当はどうだったのかな。
掠れる声で質問を繰り返しても、貴方は答えてくれない。
話せばいつも喧嘩していたから、質問したことなんてほぼ記憶にない。長い時間共に過ごして、お互いわかった気になっていた。分かっていることなんて、それこそほぼ無いのに。
二人の関係が崩れるのが怖かったの。私怖がりだから、貴方が解決してくれるのを待っていたの。
ごめんね、ごめんなさい。逃げてばかりでごめん。
こんな時になってようやく言葉にできるけど、
「貴方のことが大好き」
あぁ、さっさと言っておけばよかった。
返事の無い告白ほど虚しいものはないだって今知った。
大好き、好き。本当に、世界で1番、大好き。
でも分からない、知らないの。貴方は私のことが好きだったのか。私は貴方のタイプだったのか。このお出かけで貴方が私に何を伝えようとしたのか。なぜ、落ちてくる瓦礫から庇ってくれたのか。
「あぁ、もっともっと沢山知りたいことがあるのになぁ」
悔しい、辛い。今更後悔したって遅いのに。燃え盛る火の中、私はそう考えずにはいられなかった。