僕の心臓をどうぞ。
だから、あなたの心を覗かせて。
どうせ、どちらも叶わないのだろうけれど。
『My Heart』
わたしは、あなたほど世界を知らないわ。
知恵も知識も可愛いものも。それは、物語を綴る上で、きっと必要なものなのに。
たまに、無性に腹立たしいの。羨ましくなるの。
大好きなあなただから、余計にそう思ってしまうのね。
『ないものねだり』
わたしは。
楽しくないのに、面白がるふりをした。
好きじゃないのに、とにかく、笑っていた。
わたしは、そういう性質だ。
本当に厭になる。
「あら、お客様は帰ったの。すっかりむくれているわね」
「……最初からむくれているわよ」
「うん。じゃあ、お茶にしましょう」
あなたの長くてきれいな髪がなびく。
わたしのこんな性質を知っているのは、あなただけ。
あなたは、なにもかもつまらないわ、大っ嫌いなの、ってぶすっとしたわたしに笑いかけてくれる。
厭な気持ちが、少し、すうっと軽くなる。
淹れたての紅茶を飲みながら、向かいに座るあなたのことを考える。
ねえねえ、わたしね。
あなたとお話するのは楽しい。
あなたに笑いかけるのは好きよ。
わたしの、唯一のお友だち。
『好きじゃないのに』
最近、すっかり暖かい。
冬が溶けて、春が咲いていく。その、狭間の季節だ。
今日は晴天。通りがかりの公園で、ちいさな子どもたちが遊んでいる。
あちらでは、白い犬とその飼い主らしき人が、のんびりと散歩をしている。
穏やかな午後の昼下がり。
青空を見上げて目を眇める私の頭上にだけ、雨雲がある。
つい昨日までの六年間、ずっとずっと好きだったのにと、心の中に雨が降る。
『ところにより雨』
わたしには白い友だちがいる。
白くてふわふわの毛並みの犬だ。もうそろそろ、五歳になる。
彼は、わたしと、つかず離れずで暮らしている。あまり、べったりと甘えたいタイプではないようだ。
けれど、わたしがベッドに横になると、彼は必ずこちらに来る。軽やかにベッドの上を歩き、なぜか一度、わたしの顔を覗き込む。
そして、くるりと背を向けて、わたしの脚の上に乗る。
ふう、とため息をつき、自分の前あしを舐めて、少しずつ眠りに入っていく。
わたしは、手を伸ばさずにはいられない。
彼の背中を撫で、後頭部を撫で、ちょっと鬱陶しそうに向けられる視線に思わず笑ってしまいながら、幾度となくこう考える。
――ねえ、きみ。きみは、うちにきて、幸せかなあ。
きみが幸せと感じるものは、きみにしかわからない。だから、わたしには、想像することくらいしかできないけれど。
少なくとも、わたしは幸せだ。きみに出逢えて、きみが今日も元気でいてくれて、わたしは幸せなんだ。
わたしができるすべての事で、きみを幸せにしたい。いつか来る別れのときに、きみはきっと幸せだったでしょうと、わたしの心が迷いなく誇れるくらいに。
わたしの大切な友だち。
今日も一緒にいてくれて、ありがとう。
どうか、安心して、ゆっくりおやすみ。
また明日。