日陰から
てんとう虫が歩いてきて言った。
「喉が渇いたわい」
すると上の方にあるサトイモの大きな葉っぱから
ビー玉のようなまぁるい水滴がひとつぶ
彼の上に転がり落ちた。
水のビー玉はてんとう虫をすっぼり包みこむ
一瞬びっくりしたてんとう虫は、水だと気がつくとこくこくと飲み干して
「あぁ美味しかった。ありがたや」
天を仰いでそう言ってから、勢いよく羽ばたいていった。
瑞々しく艶めく赤い背中に、七つの星がきらきらと輝いている。
永遠に変わらないものってあるのかなぁ。
お父さんもお母さんも歳をとった。
じゃれあって育ったきょうだいは、今では人の親だ。
大好きだったおばあちゃんももうこの世にはいない。
親友だと言い合っていた学校の友だちとも、いつしか疎遠になってしまった。
自分だって10歳だった時と大人になった今では違うし。
昨日と今日だって気付かないだけで変化してるんだろう。
恐竜の世界は1億6000万年も続いてたんだって。
1億6000万年なんて気が遠くなるような年月だけど、それでも長い時が過ぎて恐竜はもういない。
恐竜の世界を想像するとどこか懐かしいような気になるのは、その頃あたしも恐竜だったのかな。
首が長くてものすごく大きいプラキオサウルスだったらいいなぁ。
高層ビルも道路もない、広大な大地をドシンドシンと歩く気分はどんなだっただろう?
バンパイヤだったら永遠に変わらない?
エドガーは今もどこかで旅をしながら生きてるのかな。
仲間と共にバラを散らしながら…
でも永遠に生きるなんて、やっぱり嫌だ。
変わりゆくことは救いでもあるよ。
今日はどんな変化があるんだろう。
ささやかなことに思いを馳せて過ごしてみてもいいかもしれない。
しんどい夜だった。
友人の華々しい活躍ぶりを実家の母に話したら
「うちには誰一人そんな人はいないねぇ」とため息をつかれた。
いつものセリフなんだけど、もう長年の口グセみたいなもんだけど。
でもやっぱりこころに針がちくりと刺さる。
針が増え続けたトラウマの塊は、今では剣山のようになってしまった。
この夜は眩暈で寝付なくて、ベッドに横たわったまま、自分の存在を保つのに必死だったよ。
浴びてきたのがそんな言葉たちじゃなかったら。
私は自分の存在も、他人の存在も、
もっとこころから本当に祝えたのかもしれない。
月も星もない真夜中、ざぁっと音がしてきた。
暗闇に確かな雨の存在感。
ひととき、ぼうっとその存在感と一体になって
私はようやく眠りに落ちた。
中秋の満月の光を浴びて、霧が晴れるように穏やかな気持ちになった。しんしんと静かに夜の世界を照らしている。体の中まで光が通って透きとおっていくみたいだ。余計なものはもう要らない。自分の人生を大事に生きよう。やりたいことを夢中で楽しくやってさ、自分なりに積み上げていけたらそれでいいじゃない?