波音に耳をすませて
攫われていくのをただ待つ
血液の流れる音にもよく似た雑音は、懐かしくも心地よく、そして不愉快だ
生きた心地を思い出す
自分の輪郭に縛られる
例えば、そうだ
水面の声を一身に受けとめどなく打たれる、
湖の孤独な岩のように
押し寄せる世界によって、自分の姿形を実感できる
それと同時に、今にも崩れそうな膝と世の不条理を今一度認識できる
そうして、生をしかと真に受けて、そうしてやっと、明確な死を遂げられるのだ
全てを現状を受容して初めて、完璧で完全に死ぬことが出来るのだ
今夜は朔日だ
常日煩わしい小艇も水平線も、今はなりを潜めている
なんの光も反射しない波が漆黒を糧にこちらを呑み込もうとやってくる
これこそ望んでいた、完璧で完全でつまらない世界だ
あぁ、本当に素晴らしく、画一的だ
飽きた
こんな風に悟ったふりして語った所で、結局待つだけでは終われる筈もない
しかし行動する気力も体力も残っちゃいない
だからまた、
波音に身を委ねる
寒いなぁ
青い風が舞っている
心に身体に中に目の前に、
そして都市に風呂場に呼吸器に
青い風が舞っている
雷雨の匂いがする
大気に可視光が乗る前に聞いた予報では、確か今日は晴れだった
目が疼いている
小窓から澄んだ快晴が差し込んだように思える
部屋や自身の影が暖かい黄色を織りなした
そこに、
カナリアを見た
幻想か
今更、過日を嘆げこうとも、もう遅いのに
端から、救われようも無かったのだ
痛みは消えた
呼吸なんぞは疾うの昔に手離している
あれからどれほどが経ったのか知る由も無い
このまま浄化してはくれないだろうか
青い天使に呑まれるように、死
ねた
ら
遠くへ行きたい。
ずっとずっと遠くへ行きたい
地球規模とも宇宙規模とも違う、
果ての知らないその先まで、
ずっと
好きに泣けた頃に、行ってみたかった
好きが嗄れるより前に、行ってみたかった
まだ救われた頃に、行けたら、
これはたらればだ
もう無理だと悟った
だから
笑ってさよならしたかった
それは輝いてたのに、
折れたから代わりにクリスタルを食べた
痛かった、不味かった
やっぱ
それが良かったのにな