あお

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3/15/2025, 11:10:39 PM

 できることなら、親友とずっと一緒にいたい。学校の登下校も、休み時間も、放課後も。
 山に囲まれた田舎町でやれることは、ほとんどなかった。だから、休みの日は必ずバス停で待ち合わせた。
 大都会へ行ってみたかったのだ。代わり映えのない日常に、色を差したかった。
 日に二本しか来ないバスは、二時間前に発車した。それでも走ってきたから、息は切れ切れだ。そんな僕を見て、親友は笑う。
「またバスに乗れなかったな」
 誘うのも僕だが、遅刻するのも僕。
 親友は大都会へ行く気などない。それでも待ち合わせに来るのは、僕が寝坊することに賭けているから。
 バス停から踵を返し、その足で駄菓子屋に向かう。賭けに負けた僕は、親友の好きなアイスを奢らなくてはならない。
 プラスチックの容器に二つ入った、大福のような食感のバニラアイス。今日はそれを分け合った。
 親友が欲しがるアイスは、分け合えるものばかり。棒アイスなどの一人用を、一度もねだられたことがない。
 最後の一口を飲み込んで、親友は僕を見つめる。
「あのさ」
 嫌な予感がして、目を反らした。聞きたくないという、意思表示のつもりだった。
「二人で食べるアイスは、今日で最後にしよう」
 なんで。
 たった三文字が、言えない。
 僕の寝坊は、途中から『故意』に変わった。親友と二人で過ごす時間が、大都会へ行くことより大切になってしまったから。
 僕の中に育まれた特別な感情が、日に日に大きくなる。恐らく、親友もそれに薄々気づいているはずだ。隠しきれるものじゃなくなってきている。
 ドクンドクンと高鳴る胸を押さえた。
 この心のざわめきまで知られたら、最後になるのが『二人で食べるアイス』だけではなくなってしまうかもしれない。
 お願いだから落ち着いて、僕の心。

3/14/2025, 6:12:27 PM

 ここ数日、夢に必ず現れる女性いる。
 風に吹かれる度に、その艶やかな黒髪がなびく。鍔の広いストローハットと白のワンピースが、より黒を映えさせた。
 夢の中で彼女と会う場所は、決まって海だ。
 見覚えのある景色だけど、詳しい場所がわからない。近場の海から手当たり次第に探した。
 会えるはずがないのに、諦めたくなかった。そこまで執着する理由は、夢で言われた一言。
「私を探して。あなたの幸福のために」
 今日も僕は海に行く。君を探して、言葉の真意を知るために。

3/13/2025, 3:28:34 PM

 彼が絵を描く姿を、横で見るのが好き。
 絵筆は踊るように舞い、自由にステップを踏んでいく。ひとつずつ色がついていく様は、まるで帆布に足跡を残すみたい。
 帆布が色づいて鮮やかになる度、筆洗バケツの水にもたくさんの色が広がった。
 最初は透明だったけど、今はもう真っ黒だ。
 描かれた絵に黒は使われていないのに、不思議。どうしてそうなるか、聞けば答えてくれると思う。でも、私は聞かないことにした。彼が自分の世界を色に乗せるとき、とても楽しそうに笑うから。その透徹した表情は、紛れもなく透明だと思う。

3/12/2025, 10:35:30 AM

「じゃあ、また明日」
 空が茜色に染まる頃、通学路の分かれ道で親友に言った。
「うん。またね」
 親友は屈託のない笑顔を浮かべている。夕日が照らすせいか、いつもよりも眩しい。
 咄嗟に反らした視線の先には、長く延びる黒い影。己の内なる心を映すような、欲に塗りつぶされた色だと思った。
 親友に向く特別な感情を、今日も伝えられなかった。言ってしまったら、二人の関係が終わってしまうようで。
 僕たちは友達同士のまま、今日を終えた。

 鳥がさえずる朝、空には爽快な青が広がっている。
「おはよう」
 いつもの通学路で、親友に声をかけた。こうしてまた、友達同士の一日が始まる。

3/11/2025, 3:17:22 PM

 夜道を歩いていると、君が空を指差した。
 ねぇ、あれを見て。と言うが、空には無数の星が輝いていて、どれを見るべきか悩んだ。とりあえず適当な相槌として「うん」と返す。

 綺麗だよね、と笑う君を見ながら、また「うん」と返す。僕の視線にも気づかず、無邪気に笑う横顔。
 僕にとっては、君が一番綺麗に輝く一等星。

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