あお

Open App

 できることなら、親友とずっと一緒にいたい。学校の登下校も、休み時間も、放課後も。
 山に囲まれた田舎町でやれることは、ほとんどなかった。だから、休みの日は必ずバス停で待ち合わせた。
 大都会へ行ってみたかったのだ。代わり映えのない日常に、色を差したかった。
 日に二本しか来ないバスは、二時間前に発車した。それでも走ってきたから、息は切れ切れだ。そんな僕を見て、親友は笑う。
「またバスに乗れなかったな」
 誘うのも僕だが、遅刻するのも僕。
 親友は大都会へ行く気などない。それでも待ち合わせに来るのは、僕が寝坊することに賭けているから。
 バス停から踵を返し、その足で駄菓子屋に向かう。賭けに負けた僕は、親友の好きなアイスを奢らなくてはならない。
 プラスチックの容器に二つ入った、大福のような食感のバニラアイス。今日はそれを分け合った。
 親友が欲しがるアイスは、分け合えるものばかり。棒アイスなどの一人用を、一度もねだられたことがない。
 最後の一口を飲み込んで、親友は僕を見つめる。
「あのさ」
 嫌な予感がして、目を反らした。聞きたくないという、意思表示のつもりだった。
「二人で食べるアイスは、今日で最後にしよう」
 なんで。
 たった三文字が、言えない。
 僕の寝坊は、途中から『故意』に変わった。親友と二人で過ごす時間が、大都会へ行くことより大切になってしまったから。
 僕の中に育まれた特別な感情が、日に日に大きくなる。恐らく、親友もそれに薄々気づいているはずだ。隠しきれるものじゃなくなってきている。
 ドクンドクンと高鳴る胸を押さえた。
 この心のざわめきまで知られたら、最後になるのが『二人で食べるアイス』だけではなくなってしまうかもしれない。
 お願いだから落ち着いて、僕の心。

3/15/2025, 11:10:39 PM