あなたは誰?
何度目かに思ったことだ
僕がピンチになるとやってくるし
困ってると助けてくれる
変な人に追いかけられた時も匿ってくれた
顔も声もちゃんと覚えていなかったけど
いつもお日様の匂いがした
だから覚えてる。
そして、今日も助けられた
あなたは誰?
目の前にいる子供を守らなくては
そのことだけは覚えていた
バイクがあの子を引きそうになったのを助けたし
道が分からず戸惑っているところに出くわし、一緒に歩いて送り届けたし
小さい子を狙った変態から彼女を匿った
人じゃないから、声も顔も覚えられないけど
匂いだけはちゃんと分かる。
そして、今日も助ける
何があっても
でも、なんでなんだろうか
手の込んだ手抜きなんて言葉がある。
手を抜くために、それまでの行為に全力で挑む
そんなことをするくらいなら、普通にやった方がいいんじゃない?ってことだ。
幼なじみのあいつは、なりたいものがある。
夏の夜空に花を咲かせる花火師に
「俺はよ、でっけぇ花火を咲かせるんだ」
病院から見えたあの景色を
明日死ぬかもしれないと言われたあの日にみた空を
絶望の縁にいた彼を照らした大輪の花を
今度は自分で作ると言うのだ。
余命宣告受けたあの日以来見せなかったメラメラと宿る活力は花火の轟音と刹那に消える光が灯したのだ。
まるで、燃え尽きる前のロウソクのように
季節は移ろいで、桜の蕾が開き始めた暖かい日
彼の体調は急変した。快調に向かっていたはずの体は病にゆっくりと犯されていたのだ
ひとりで歩くことさえ出来ない彼を無理通して屋上で小さな花火を打ち上げた。
煌めく夜空をより一層輝かせ、まだ肌寒い風が火薬の匂いをかき消した。
彼がこの世を去って15年と少したった今
彼とみた夏の夜空を
彼に生きる希望を与えた煌めきを
彼の輝きに魅せられた私が
「さぁ、でっけぇ花を咲かせよう」
誰かに刹那の輝きを魅せる為に
写真を撮るのが好きだ
風景を撮るのが好きだ
でも一番好きななのは
写真を撮る、君を撮ること
アルバムにまた君の背中が1枚増える
「私ね、その人に送った最後のものが永遠になると思ってるの。でね、その人にあげるものはいつも最後だがらって後悔のないものを渡してるのね。貴方に渡したそれがもしかしたら最後になるのかもって」
ある時彼女はそう言っていた。
2年前に付き合って初めてプレゼントをくれた日のことだった。
珍しくホワイトクリスマスだったから覚えてるし、初めての彼女にもらった初めてのクリスマスプレゼントだから。
彼女が働いていた、洋服店で取り扱ってたセーターだ。
普段滅多に気ないその色の服。
似合わないと思って手に取らなかったそれを、彼女はくれた。当時は、嬉しさも相まって毎日のように着ていた。
次に貰ったものは、財布だったし。
その次に貰ったのは、時計だった。
形に残るものを彼女は、渡したがり
形に残らないものは、絶対くれなかった。
「目に見えないものは、無いのとおなじ。愛は、目に見えず渡すことも受け取ることも無理。だけど行動とそれに伴ったプレゼントは渡せる。全て愛なんだよ。」
今に思えば、きっとあの言葉は照れ隠しだったのだと分かる。
今日も後悔とともに咲くドライフラワーの花束は心を締め付ける
「わあ!」
不意に後ろから放たれた大きな一言
驚き体がビクンとはね、反射で振り向いてしまった 。
声の主はそこにはおらず、笑い声が聞こえた
「ふふっ、引っかかった。」
僕は振り返ってはならない道を歩いている。
だと言うのに、やってしまった
突風と巻き上がった砂埃で目の前が霞む
次第に体の感覚がおかしくなった
立っているか分からず、目を閉じてることしか出来ない。
気がつけば、歩き出した最初の場所にいる
この世の終わり、黄泉の国の門の前
黄泉比良坂のその終点に。
振り返るな、振り返らなければ家に帰れる
何度やってもいい、ただ心が折れなければ
神と約束した、この坂を登りきる。どんな誘惑が災難が襲おうとも
3度の失敗で分かった。割と神は暇なのだと。
もう一度、失敗したら、神の話し相手にでもなるかと
「わあ!」