心と心
触ったらあったかかった。
あなたが伝えなくても、伝ってきた。
ぬくもりってこういうことなんだ。
そう思えた夜だった。
でもいつの間にか冷たくなってた。
あなたが伝えないから、伝ってきた。
今は触ってないから、冷たさすら感じないもんね。
ならなんで、私の頬は濡れていて冷たいのかしら。
泣かないで
泣かないで、なんて言いたくない。
私の前ではいくらでも泣いてほしい。
あんなに大きくてごつごつした体でも、心が大きくてごつごつなわけじゃない。
いつもはぴしっと伸ばした背中を丸めて、私の膝の上で眠ってほしい。
不真面目でも頼りなくてもいいから。辛かったら仕事なんて休んでもいいから。
あなたが帰ってきた時は、いくらでも抱きしめてあげるから。
秋風
色に捨てられた落ち葉が舞う。ついこの間まではあんなに綺麗な赤だったのに。彼らの意思には反して無情に吹き流されていく。梢と繋がれない葉なんてのは、踏まれて風に飛ばされるためにあるんだ。なのに、なのに。
肌寒い夜に暖められた右手の感触は、いくら色を失っても皺が引っかかって飛ばせない。
冷たい風がしみて痛いのは、唇の乾燥のせいだろうか。それとも。
また会いましょう
離れてる時の寂しさがあるから、あなたの大切さを噛みしめることができる。
会えない時間があるから、また会いたくなる。
またね、って言ったあなたの声もとても好きだけど、何も言わずに抱きしめられる時間の方がもっと好き。
今は会えなくても大丈夫。この時間が次のための大きな愛を育ててくれるから。
飛べない翼
朝起きて飯を食って歯を磨いて、さあ学校に行こうと思ったその時。気づいた。飛べない。羽はついているのに。昨日まではあんなに簡単に飛べたのに。何か悪いことをしたのがばれて、神様に天罰を下されたのだろう。自分が悪いのだと受け入れることなど到底できず、朝から本当に腹が立った。
飛べないなら、どうやって学校に行けばいいんだよ。
もうしょうがない、歩いていこう。普段はわざわざ道なんて面倒だから通らないのに。ふざけんなよ。でも、今までは飛んでたから見えなかったけど、こんなに綺麗な花がたくさんさいていたんだ。知らなかった。歩くのも案外悪かないな。なんだか気分がいいし、久しぶりに走ってみよう。走るのなんていつぶりだろうか。そう思って交差点を曲がったその瞬間、そこにもう道はなかった。
落ちていく。なんで道だけは絶対に用意されてると思っちゃったんだろう。
飾りとしての翼すらも、綻び散っていくのがわかった。
こんなことになるなら、こんな翼最初からいらなかったのに。