10年後の私から届いた手紙
元気ですか?体調、崩していませんか?
まだ、踏み止まって、藻掻いているところかな?
わたしもまだまだ、藻搔いていますよ。相変わらず。
少し大人になれたかな、と自分では想っています。
あなたより少しだけ、やりたいことをやれるようになりましたよ。
もう少しで、わたしの人生は終わりを迎えます。
…と書きたいところだけど。
それは居るか居ないか分からない神様が決めることなのかな…。
あなたは、今を後悔なく生きていますか?
大事な人に日々、想いを伝えていますか?
美味しいチョコレートは食べましたか?
あなたの1日1日が、今のわたしに繋がっています。
あなたはあなたを愛することを忘れずに。
今を、生きてくださいね。
バレンタイン
小さい頃からチョコレートが大好きだった。
チロルチョコの詰め合わせを買って、いつも一緒に帰る男の子に渡そうとしたことがあった。その日はたまたま私のほうが早く帰ったので、自分のお家の近くを通るその子を待っていた。
美味しそうなチョコレート。
我慢できなくてひとつ、またひとつと食べてしまった。待ちきれなくて自転車のカゴにチョコレートの袋を入れて、遊びに行こうとした。
その時、その子が帰ってきた。カゴの袋からチロルチョコを3粒出して、その子に渡した。
その渡し方、今想えばとなりのトトロに出てくるカンタ君みたいだったな。
ホワイトデーの日、3粒のチロルチョコは大きな大きなチョコレートマフィンになって返ってきた。何だか、わらしべ長者みたいだなと想った。
わたしにとって、バレンタインなんてチョコレートを美味しく食べるための口実にしか過ぎない。
ホワイトデーのお返しがチョコレートじゃなくて、飴とか他のお菓子になってしまうのが、とても残念だった。
昔から「好き」「嫌い」の感情が、人と少し変わっていたのかもしれない。大人になってから気が付いた。
女の子たちがキャッキャしながら、チョコレートの話をしている。男の子たちはなんだかソワソワしながらそれを見ている。
わたしは、そのどちらでもない。
だから、少しだけ、みんなの真似をしてみたかったのかもしれない。
あの子に「Like」を伝えて、あの子から「Like」が返ってきた。ただ、それだけ。
小さい頃のバレンタインの想い出。
待ってて
すぐそっちに行くよ。
またゼェハァ言いながら一緒に走って、お散歩しようね。大好きなパン持っていくね。
今度はずっと一緒に居てあげたいな。
何も考えずに野原で走り回って、ゴロンと横になって、隣には舌を出して暑そうで、でも楽しそうな顔の君。
君のいる場所なら、飛んでいけそうだから、車酔いもしないよ。大丈夫。
雪で遊んだあの場所にも、もう一回行こうか。何にも縛られないふたりなら、きっと前よりもっと楽しいだろうな。
君の分身をたまに見かける度、君の名前を呼ぶんだ。
僕の一番の友達は君だったのかもしれない。
たくさん遊んであげられなくてごめんね。
しっかりお世話出来なくてごめんね。
君から与えられる罰なら喜んで受けるよ。
そしたら、またいっしょに遊んでくれるかな?
僕はきちんと罰を受けて、君に会いに行く。
それまで、待ってて?
伝えたい
「愛しているけど、好きじゃない。」
「カルテット」というドラマの台詞が想い浮かんだ。
伝えたいことはたくさんあった。
ただ、伝えるたびに返ってくるのは、否定、反論、保身、訂正、指摘…。
わたしの伝えたプラスの感情や考えさえ、無かったことにされていく。
「お前はいつまでも変わらない」
「また、泣くんだろう?」
「結局俺が悪者なんだ」
どうしてだろう?どうしてだろう?
「こんなにも変わりたいと願っているわたしが、あなたの中ではいつまでも変わらないのだろう?」
「泣くことは悪いことなの?」
「あなたが悪者だなんて、誰が言ったの?」
「ねぇ?誰があなたを苦しめているの?」
わたしの言葉は、あなたに届かない。
わたしの「伝えたい」は、涙と一緒にどこかへ流れて行ってしまったから。
花束
握りしめたそれは、あの人の好きな黄色。
少しでも癒やされるように葉物や白い花を加えて、黄色の元気パワーを優しくしてもらった。あの人の好きな魚のモチーフはさすがに無かったので、可愛いワンちゃんを付けてしまった…。
花束のリクエストはお手のものだ。
その人の好きな花、好きな色、好きな雰囲気、今の状況、色んなことが想い浮かぶ。それを言葉にして花屋さんに伝えるだけ。
いつも行く花屋さんはニコニコしながらお話を聴いてくれる。出来上がりは文句なし。とても可愛らしい花束。
喜んでくれるかな?
渡す時の言葉はどうしよう?
セオリーとは違うけど、喜んでくれるかな?
お花が枯れても、付け加えたお茶目なワンちゃんが想い出を繋いでくれる。
きっとあの人は「可愛いね。ありがとう。」と言って、どこか目に付く所にワンちゃんを飾ってくれるだろう。
花束を選んだ理由と、ワンちゃんを付け加えた理由。
あの人には言わなくても伝わる。
けれど、渡す時何だか照れくさくて全部口から出ていた。
「うん。可愛いね。ありがとう。」
やっぱりそう言って、あの人は僕と似たように照れくさそうに笑った。
そして、少し誇らしげにワンちゃんを飾ってくれた。