「もう春だね。」
俺は今日も、彼女を探す。
「入部ありがとうございます!」
俺の前には嬉しそうにしている女の先輩。俺は可愛らしい先輩に惹かれ、気付いた時には廃部寸前の【写真部】に、入部していた。後悔しても、もう遅い。先輩は仲間ができたと喜んでいた。そんな先輩に現実を話すのは酷だ。俺は諦めて、部員二人だけの写真部に入部した。
あれから半年が経った。先輩との部活動は大分楽しいかった。先輩の事もよく知れた。彼女は蝶、特にモンシロチョウの写真を撮る事が多かった。来世は蝶になりたいな~。なんてよく言っていた。来世なんて現実離れしている。その時は思っていた。それなのに。
先輩が交通事故に遭って亡くなった。俺はまだ、先輩に好きを伝えていないのに。何度も後悔した。だが、先輩は戻らない。泣き疲れた時、俺は自殺を決意した。
最後に先輩の墓を訪れた。そこには先輩が待っていた。先輩は生前と変わらぬ、可愛らしい笑顔で居た。
『やっと来た〜。待ってたんだぞ。』
涙が出る。でも、先輩の前では格好つけたい俺だ。
「すぐに、そちらに向かいます。また一緒に写真を撮りましょう。」
俺は下手くそに笑った。しかし、彼女の笑顔はなかった。
『駄目だよ。命を大切にして。まだ生きてよ。』
「貴方が居ない日々になんの価値もないですよ。俺はこれからも先輩が好きです。」
先輩は泣いていた。嬉しそうな、悔しそうな表情だった。
『私も好きだよ。でも、もう手遅れなんだ。だからさ。私は来世では蝶になる。そして、君は私を撮るんだ。』
先輩は本当にずるい。その瞳を見て、断れるわけない。俺は先輩に小指を向けた。
「約束ですよ。」
先輩の顔には、俺の大好きな笑顔があった。
俺は先輩を探して色んな所を訪れた。しかし、どこにも居ない。そこで俺は二人だけの部室に向かってみた。俺は、部室に入るなり、シャッターを切った。小さくて儚く、それでも確かな強さがある可愛いらしい先輩の姿があった。
『来世では、結ばれるかな?』
これは何度も見てきた夢だ。内容は【ロミオとジュリエット】のようだ。恋が叶うように来世を願う彼女。その相手が何て言ったかは分からない。ただ、彼女は泣いていた。
「呼び出してごめん。」
俺は幼馴染の彼女に言う。彼女はからかうように言う。
「もしかして、告白ー?」
彼女の言う通り。俺は今から、5年間の片思いに蹴りをつける。彼女への思いが爆発する前に。
「好きです。5年前からずっと好きだ。」
ついに言えた。彼女の顔を見る。何かに怒っているように見えた。
「忘れたんだね。思い上がった私が馬鹿みたい。」
俺は何を忘れているのだろう。戸惑う俺の様子が、更に彼女を苛立たせたようだ。彼女は俺に近づき、キスをした。感情と行動が全然違う。俺は動揺を隠せなかったが、同時に頭に鋭い痛みが走った。そして思い出した。昔の事を。
俺らは前世、結ばれなかった恋人同士だった。しかし、お互いを諦めきれなかった。度々、二人で会っていた。俺のあの夢は俺らの前世だったのだ。全て思い出した。彼女はこれを覚えていたんだ。だから、俺の〝5年前〟という言葉に苛立ったのだ。
「思い出した?」
彼女は俺の顔を覗き込む。
「最初に君に会った時は驚いたよ。約束覚えててくれたんだって。」
そうだ。俺は約束したんだ。それも忘れてしまっていた。
「ごめん。今思い出した。」
「いいよ。現世では結ばれたんだし。」
彼女はお茶目に笑う。昔と今の彼女が重なる。僕らはもう一度、キスをした。
あれから数十年後。俺はもうすぐ寿命が来る。でも、不思議と恐怖はない。彼女が居るから。俺は彼女に前世と同じ言葉を言った。
「来世で君がどんなに変わっていても、探し出すよ。」
そして、俺は息を引き取った。来世では覚えておこう。この忘れられない約束をいつまでも。
「今日はね、庭に花が咲いたんだよ。」
彼女が嬉しそうに話す。しかし、その目は笑ってはいなかった。僕はその理由を知っている。だが、何も出来ない。僕は、自分の無力さに涙した。
「一年後、貴方は死にます。」
一年前に友達と行った、占いの館での事だった。ここの占いは絶対当たると、巷でも有名だった。そんな場所での、突然の余命宣告。僕は、占い師の言葉に耳を疑った。そして、苛立った。人の死を何だと思ってるんだ。僕は早足で館を出た。
「安心してください。貴方の死は正しい。」
占い師がそんな事を呟いていた。正しい死ってなんだ。僕はこの意味を一年後、理解した。
「ごめんなさい。私のせいで。」
薄れゆく意識の中、彼女の泣き声が聞こえてくる。僕はもうすぐ死ぬ。彼女を庇って、車に轢かれたのだ。この選択は正しいんだ。占い師の言葉を思い出す。そういえば、今日で一年だったな。死ぬというのに頭は冷静だった。だが心残りはあった。彼女だ。優しい彼女は、僕の死を自分のせいだと追い詰めてしまうだろう。どうか君には、僕の分まで長生きして欲しい。そんな事を思いながら、僕は天国に昇った。
今日は彼女が墓に来ない。風邪でも患ったのかな?そういえば、今日で僕が死んで一年経つらしい。天国では時間の流れがないため、日時は分からない。彼女も来ないみたいだから、もう帰ろう。そうして僕は、天国に戻った。天国に戻った時、僕の目から大粒の涙が流れた。
僕は彼女と再開した。
「早くこんな日終わればいいのに。」
屋上から幸せそうに歩く人々を眺めながら、本音を零す。俺は、クリスマスが好きではない。初恋と失恋の辛さを知った日だから。
「好きです。」
俺は2年前のクリスマスに、初めて出逢った彼女に恋をした。母に頼まれて、ケーキ屋へお使いをしていた時だった。街行く人々は、楽しそうに話しながら、飾られた店内に目を輝かせていた。そんな中、彼女が居た。街行く人々とは対照的で、何かを憎んでいるような表情をする彼女。俺は一瞬で、彼女の謎めいた雰囲気に飲まれた。気付いた時には、告白していた。彼女は知らない人に告白されて、戸惑っているようだったが、すぐに先程と同じ表情に戻った。案の定、告白は失敗した。初恋の終わりは早かった。放心状態の俺と居るのが気まずかったのか、彼女は今日は何をしに来たのか聞いてきた。
「ケーキのお使いだよ。君は?」
俺の質問を聞いて、彼女は暗い表情をしながら話した。
「今日は、妹の命日なんだ。だから、プレゼントでも持って行こうと思って。」
俺は焦った。今すぐ時を戻して、この質問を無効にしたい。俺の気持ちに気付いたのか、彼女は小さく笑った。
「気にしないで。話を振ったのは私だし。」
それから、2時間ほど話していた。彼女は妹さんの事を幸せそうに話した。その表情を見て確信した。俺はまだ、彼女が好きだと。辺りが暗くなり、俺達は帰る事にした。帰り際、彼女は震えた声で言った。
「じゃあね。最後に君に会えてよかった。」
最後の方は良く聞こえなかった。
次の日、彼女が自殺したとニュースで報道された。
あれから2年。俺はクリスマスの日は彼女の墓参りに来ている。どれだけ月日が経っても、彼女への未練は消えないままだ。それどころか、どんどん溢れていく。
「天国で俺のこと見てるかな?来世でも逢いたいね。」
俺はそう言って、墓を後にした。
次の日、俺は死体で発見された。
「ごめん。」
そう言って僕は、愛する彼女へナイフを向けた。彼女は嬉しそうに笑った。
『明日、隕石が地球にぶつかります。』
ニュースで流れる現実離れした内容。今日が地球最後の日だ。僕は鞄に荷物を詰めて、病院に向かう。僕にはやるべき事があるから。彼女は病室に居た。窓の外を眺める、美しい彼女。彼女は幼い頃から不治の病を患っていた。もう長くないらしい。僕は彼女に近づき、持っていたナイフを突き出した。
「今日が地球最後の日だって。もう明日はないんだ。だから、僕は君を殺す。約束ために。」
声が、手が震える。でも、逃げたら駄目だ。僕は彼女から貰った使命を果たせないと。僕の気持ちを見透かすように、彼女は笑った。
「覚えてくれたんだね。ありがとう。」
彼女との約束、それは彼女の最後を見届ける事だ。明日になれば、彼女も僕も死んでしまう。だから、今殺すのだ。そして、約束を果たすのだ。それが僕に生きる意味をくれた彼女への恩返しだ。
「君の手で死ねて嬉しいよ。」
この言葉は本心なのか?それとも、僕が気を病まないための嘘か?答えは分からない。彼女は少し照れながら最後の言葉を口にした。
「天国でも逢いたいね。そうしたら私を、君のお嫁さんにしてください。」
そして僕は、彼女を殺した。彼女は最後まで、優しく美しかった。こんな僕をあの世でも愛してくれると言うのだ。僕の手と頬には温かいものがあった。
「天国、僕は逝けるのかな?その約束は守れないかも。」
愛する人を殺した僕は、きっと地獄逝きだ。それでも少しの希望を持って、僕は彼女の薬指に光る物を付けた。やっぱり、彼女に似合う。僕は彼女の死体に、愛を囁いた。そして僕は彼女を刺したナイフで、体を赤に染めた。