海月 時

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「ごめん。」
そう言って僕は、愛する彼女へナイフを向けた。彼女は嬉しそうに笑った。

『明日、隕石が地球にぶつかります。』
ニュースで流れる現実離れした内容。今日が地球最後の日だ。僕は鞄に荷物を詰めて、病院に向かう。僕にはやるべき事があるから。彼女は病室に居た。窓の外を眺める、美しい彼女。彼女は幼い頃から不治の病を患っていた。もう長くないらしい。僕は彼女に近づき、持っていたナイフを突き出した。
「今日が地球最後の日だって。もう明日はないんだ。だから、僕は君を殺す。約束ために。」
声が、手が震える。でも、逃げたら駄目だ。僕は彼女から貰った使命を果たせないと。僕の気持ちを見透かすように、彼女は笑った。
「覚えてくれたんだね。ありがとう。」
彼女との約束、それは彼女の最後を見届ける事だ。明日になれば、彼女も僕も死んでしまう。だから、今殺すのだ。そして、約束を果たすのだ。それが僕に生きる意味をくれた彼女への恩返しだ。
「君の手で死ねて嬉しいよ。」
この言葉は本心なのか?それとも、僕が気を病まないための嘘か?答えは分からない。彼女は少し照れながら最後の言葉を口にした。
「天国でも逢いたいね。そうしたら私を、君のお嫁さんにしてください。」
そして僕は、彼女を殺した。彼女は最後まで、優しく美しかった。こんな僕をあの世でも愛してくれると言うのだ。僕の手と頬には温かいものがあった。

「天国、僕は逝けるのかな?その約束は守れないかも。」
愛する人を殺した僕は、きっと地獄逝きだ。それでも少しの希望を持って、僕は彼女の薬指に光る物を付けた。やっぱり、彼女に似合う。僕は彼女の死体に、愛を囁いた。そして僕は彼女を刺したナイフで、体を赤に染めた。

5/6/2024, 11:37:31 AM