まだ少し寒い晴れの日、
二人で海沿いを歩く。
少し先を歩くあなたの後ろ姿。
振り返って、今日、風が強いねと笑う。
太陽がまだ低くて、
朝の光がちらちらと波間に煌めく。
些細な日常が急に愛おしくなって
口元が緩んだ。
なんだか照れくさくなって
両手で帽子のつばを引き下ろして顔を隠した。
あなたが、どうしたの、という
なんでもないよといったけど、
不思議そうに見つめるあなたに
ああどうしよう、と思った。
風でワンピースのスカートが
バタバタとはためく。
波の音と、海のにおい。
すこし寝癖のついたあなた。
こんな日が続けばいいと
思ったいつかの日。
「帽子かぶって」
いやいやという
ちいさいあなたに
ちいさな麦わら帽子をかぶせた
いやなのね
すぐにとってしまって
あわれな帽子は床にたたきつけられた
制服着なきゃ、幼稚園に行かれない
20分後に出ないと間に合わないのに
あれもこれもまだ済んでないのに
ああ、ブレザーも脱いでしまった
おねがい、おねがいだから
帽子をかぶって!
子どもの頃、物陰に隠れて親を驚かせるのが大好きだった。隠れる場所はいつも決まって、玄関近くの竹やぶ。
いつも同じところから出てくる子どもの脅かしなんて、気が付かないはずがない。けれど、私の親、時には祖父母、彼らは律儀に驚いた振りをしてくれていた。
もうあの竹やぶに隠れられる大きさではなくなってしまったけれど、思い出たちが今も私の心を暖めている。
「わぁ!」
昔すごく好きな小説シリーズがあった。
あとがきで作者が亡くなったことを知った。
「終わらない物語」
守られていたんだろうな。
今思い返すと、そう感じる。
小さいマシュマロの雨みたいな
たくさんの嘘、嘘、嘘。
みんな甘くて美味しいのに
舌に残る人工的なバニラの香りが
妙に鼻につくのだ。
美しく飾られたドールハウスに、
薄ピンクのかわいいフィルターをかけて
丁寧にていねいに隠された真実。
世界って、
そんなに美しいものでもなかったんだね。
酸性雨がパラパラと降る、
ネオンの光とクラクションが煩い
どうしようもなく都会の臭いがする、夜。
「やさしい嘘」
縫い合わせた瞼越しに
柔らかい光を見た
「瞳をとじて」