頭が嘴にハンマーでも付けた啄木鳥につつかれてるみてェに痛むんだ。
>>>
多分、極限まで行ってしまえば後悔さえ贅沢になるのだろうと思う。未来で過ちを犯さないために後悔なんてのがあるのだとすれば、ひっくり返せば後悔するのは未来があるということなんだろうと。
ただまあ、それで後悔の味が良くなるかってッたらんなこたァないよなァ。あれは、胸を掻きむしりたくなるほどに苦くて、面の皮剥がしたくなるくらい顔が熱くて、臓物全部投げ捨てたくなるくらい痛くて、頭がぐわんぐわん回ってるみたいに吐き気がする。思い出す度にそこらの川にでも飛び込んでやろうかなんて思う。
だけれども、自分を火にくべて丸焦げにしているだけマシだ、とも思う。他人や世の中に筋の通らん怒りを向けるよかまだ心が生きている。ような気がする。
よく物語で出てくるような、勢い余って世界滅亡を目論むような悪役はきっととんでもなく不幸で、とんでもなく孤独だったんだろう。その心は血だらけで、そうするしかもう生きていかれなかったんじゃなかろうか。
……後悔、後悔ねェ。後悔するだけ無駄だとか、後悔したって過去は変わらないだとか、世間じゃよく聞く言葉だ。真理ではあるのだろうが、それだけ人間が「後悔」をして苦しんだからこそ生まれた言葉でもあるんだろう。
そして、ま、そんだけ後悔する奴がいるんだ。ならばそれは人間として持つ機能のひとつで、いつかどこかの段階で生存に必要だったから備わった技能なのかもしれない。
そういうことを布団にひっくり返ってゴタゴタ考えているんだから、人間とはまこと奇っ怪な生き物なんだろな。
──ああ!そうとも!俺ァ後悔してるさ!呑まなきゃ良かったってな!!
「後悔」
斃れ、積み重なった亡骸の山々の前に跪いて、真摯に、真剣に「死者のゆくさきに幸福があるように」と祈る人を見たことがあった。
空は曇り、煙と砂塵にまみれ、まるで色彩が無くなったかのような世界で。その人のまわりだけは光っているように見えたことを今でも覚えている。
あの頃、戦乱の中で人々は疲弊しきって、己のことだけでも手一杯だった。混迷の中でわたし達に余裕なぞなく、傷つけ合い奪い合い、そうして生きていた。そうするほか、道はないのだと。
神に祈ったところで、救いなどなく。絶望のまま息絶えた修道女、母の腕の中で道連れにされた赤子、錯乱して自らに火をつけ苦しみのうちに死んだ老人、親を失い、餓死した子ども。ああそうだ、そこは此岸の地獄だったとも。
既に一人ひとり丁寧に埋葬することなど不可能だった。しかし死体はいずれ腐り病を振りまく。だから人々は、わたし達は、浅く掘った穴に積み上げて名ばかりの「火葬」をしていた。誰であるかなんて分からない。ただ炎の中で縮んで丸く小さくなってゆく「死体」という薪を無感動に見ていた。
そこに、その人は現れたのだ。わたし達と同じようにガリガリに痩せてボロを着ているというのに、背筋はぴんと天に伸びて、この地獄の中で未だ真っ当な精神を保っていた。ひと目でわかる高潔な魂は、煌々と輝く太陽のように既に地獄に染ったわたし達の目を焼いた。
そしてその人は、薪ではなく人であると、彼らのゆくさきに幸あれと、彼らのために祈っていた。
眩しかった。そのあまりにも強い光はわたし達の幽鬼のような昏い目を、麻痺した心を、曇った魂を焼いた。あの光は、あの時あの場所あの地獄では、直視するには眩しすぎて、痛くて、苦しかった。
結局あの人はその命脈を絶たれることとなった。あの光に耐えきれずに飛び出してきたあの場所では普通の、そして今ここでは狂人と呼ばれるような人間にあっさりと殺されてしまった。わたしは、わたし達はそれをただ見ているだけだった。
長い時間が経って、混迷の時は過ぎ去り、忘れ去られようとしている。ああ、それでも忘れられぬものはあるものだ。きっと、わたしは忘れない。忘れられない。凍った心が雪解けの時を迎えた時に覚えた痛み、後悔の味と共に。かの光を、彼岸の地獄へゆく時まで。いや、その後でさえ忘れないだろう。そう、いつまでも。
「忘れられない、いつまでも。」
ショーウィンドウで見た赤茶のツヤツヤ輝く靴
冬の夜の、冷たくも甘い透明な香り
夏の日に祖父と見た夜闇の蛍
抗えぬ運命に向き合い戦う武人たちの物語
テレビで見たアニメの勇敢に戦うお姫様
泡に消えた人魚のおひい様
初めて食べたチョコレート
感情を揺さぶる音楽
学校で一番かけっこが速かった少年
栗色の長い少女の髪
海の向こう、暗雲に閃く遠雷
全てすべて、私の心を奪ったもの
恋をした日、目にした日
私を変えた、きらめく過去の思い出たち
「初恋の日」
明日世界が終わるなら
好きな人たちみんなと布団にくるまって、
ぬくぬくしながら眠りたい
「明日世界が終わるなら」
ありきたりで、耳にタコができるほど聞いててさ、昔は斜に構えて鼻で笑ったりしたけどもね、でも、みんなが言うだけあった。本当だった。
君に出逢って、私の世界は180度変わったんだよ。
昔はねぇ、要らないと思ってた。面倒だし、責任なんかとれないし、一人自由に生きていくのが好きで、これからもそうして行くんだって思ってたのさ。
もちろんね、一人の時間も悪くなかったよ。いや、宝石みたいに大切で、私の人生に必要な時間だったと思う。楽しかった。
だけど、あの人と出逢って、恋に落ちて、一緒になって。その時ですら、要らないと思ってたんだけどね。君に出逢わないように避けてたのに、お構い無しに君は私たちの間に降ってきたのさ。びっくりしたよ。
そんでね、それだけ私たちに会いたいなら、まあ会ってもいっか、って決めたんだよ。これも巡り合わせだね、って。
君の顔を見るまで、とっても大変だったしさ、思ってもみないことも沢山起きて、泣いた日もあったけど。君に会うために頑張らなくちゃいけないことも沢山あったけど。
でも、君の顔を見て、君と出逢って、私の人生は思ってもみない方向へ進み出したんだ。
君を待つ間だって、とっても大変だったけど、小さな小さな君と家に帰ってから、目が回るような毎日だった。
最初の一年は、記憶も飛び飛びでね、写真を見てこんなこともあったっけね〜?とかさ。でも、みるみる大きくなっていって、そして驚く程に意思の強い君のことが、どんどん好きになっていった。
たまにケンカもしたし、こっそりぶぅぶぅ文句言う日もあったけど、私よりも本当のほんとうに優先しようと思った命は、心からそう思ったのは、君がはじめてだったんだよ。
こんな風に思う日が来ると思わなかった。私は、私の命が一番だったのに!全部ぜんぶ、君が変えたんだ。
笑う顔につられて笑顔になって、服のサイズが変わってゆくことがうれしくて、苦しそうな様子に私も苦しくて、ただの泣き声なのに憎たらしく思って、君に母と呼ばれることがこんなに幸せだと思わなくて、私の心は君の虜だ。
色んなことがあったね。うれしいこと、かなしいこと、たのしかったこと、つらかったこと。こんな日が来ると、あの頃の私はちっとも思ってなかったけど。悪くないなって思うんだ。
君と出逢って、君に出逢えて、共に日々を過ごせて、私は幸せだ。これから先の未来が、不安もあるけど楽しみだと強く思う。
昨日の君、今日の君、明日の君、毎日違う君をみるのが楽しみだ。いつか、もっともっと大きくなった君を目のあたりにする日を、わくわくしながら。健やかに、幸せに、大きくなってくれますように、って。
「君と出逢って」